「中学2年のときに不登校になって、そのときはこの世の終わりだと思ったことを今でも思い出します。でも、つらいことは決して無駄ではなかった。決してあなたは一人ではない、頼れる大人を見つけてほしいと思います」
36歳の女性がむせびながら紡いだ言葉に、会場は涙に包まれました。3月23日、タレントの中川翔子さん“校長”になり、不登校経験者らに“卒業証書”を渡すイベント「卒業式をもう一度」でのひとコマです。
学生時代に卒業式に出られなかった人、卒業式に複雑な思いを抱えている人――中川さんの呼びかけに応じた12歳から60歳までの29人がこの日、東京の浜離宮朝日ホールに集まりました。参加者が壇上で語ったスピーチの一部を、ここでご紹介します。
「中1のときにいじめっ子に『いる意味ない』と言われ、生きている価値がない人間だと思って生きてきた」という女性。その後、自分が創作した曲で、人から「救われた」という言葉をかけられたそうです。「13歳のときの自分に伝えたいことがあります。生きていてくれてありがとう。あなたはほかの人を救えるような立派な価値のある人間だよ、と」
16歳の女性は、中学時代に「大きないじめがあったわけでもないのに、教室という空間が苦手になってしまい、教室に入ると息が苦しくなってしまった」といいます。「今日いろんなことから卒業できる。しんどいことは忘れるんじゃなくて、プラスの楽しいことでちょっとずつ意識を変えていければ」
中学時代に不登校になったという男性は、「いまは結婚して子どもが生まれ、幸せな家庭を築けています。将来子どもが大きくなって、人生のターニングポイントのときに、こんなことがあった、と、今日のことを語り合えたらいいなと思います」。壇上に立つ男性に、参列席にいたお子さんから「パパ、パパ」という声が上がりました。
どの方のスピーチを聞いても、歩んできた道のりが決して平坦でなかったことが伝わってきます。だからこそ、未来の自分への決意は力強く、今も苦しむ仲間への思いはやさしさにあふれていました。
その一方で、「今日の卒業式に出席するかどうか悩んでいた」「自分のモヤモヤした気持ちに決着をつけようと思ってこの式に参加した」と、迷いや複雑な思いを吐露する方もいました。みんなが無理して前を向けなくたっていい――この卒業式は、一人ひとりのどんな思いも認め合う、そんな場でもありました。

昨年文部科学省が公表した調査で、不登校の小中学生は34万6000人、たった1年で4万人以上も増えました。私自身もその34万分の1の親ですが、身近にもとても増えた印象があります。学校に行けない、行かないからといって人生を否定する必要もなければ、「この世の終わり」なんてこともない。卒業生たちの言葉が、いま苦しんでいる多くの子どもたち、親たちに届いてほしい、と切に思いました。
私たちAERA with Kids編集部は、この卒業式に「後援」という立場でかかわりました。旧知の不登校ジャーナリスト・石井しこうさんから「会場を探している」と相談を受けたことがきっかけです。実行委員には、中川さん、石井さんを中心に、不登校支援にかかわる教育のプロや有志の個人らが名を連ねましたが、みんなが「思い」で集まったメンバーです。卒業式を含む3日間の「空色スクール」では、実行委員のみなさんが一人ひとりの参加者と丁寧に向き合い、「いい思い出の場になるように」と奔走されていました。
式が終わって、中川さんは「この1回で終わらず、また開催したいという夢ができました」と語りました。こうした動きが全国に広がるよう、私たちも引き続き取り組んでいきます。(AERA with Kids編集部・鈴木顕)
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