――どのような学習方法を提案したのですか。

 本当に幸運だったのが「インクルボックス」の活動のおかげで、私が発達障害の支援方法の知見を大量に持っていたことでした。多くの方から「シンプルなワンフォーマット」の解決法を質問されるのですが、発達障害の支援は一人ひとりへのオーダーメイドです。全員に当てはまるフォーマットはほとんどありません。最も重要なのは「大量の知識と情報」で、それを元に当事者への最適解を模索することが最短距離です。その上で、あくまでも一例として私が実践した具体的な内容は、記述力を上げるために、山川出版社の教科書『詳説日本史』を使って、範囲とキーワード、文字数、制限時間を決めて、要約する、という勉強をやりました。書き終わっても丸つけはしませんでした。

 私は息子の発達特性から、読むスピードは速いけれど頭の中に入れた情報を「整理」し「書く」ことが苦手とわかっていました。そこで「インプット→整理→書く」の回路を高速回転させ、慣れさせようと思いました。丸つけをしなかったのは「時短」のためと、そもそも苦手なことに毎回「バツ」をつけられて息子がイライラすることを防ぐためです。そして発達特性上「切り替えが苦手」でイライラが収まるまでに人一倍時間がかかってしまうこともわかっていたので、残り時間が少ないなかで丸つけはしないほうが「慣れ優先」になると判断しました。

 また、麻布中学の「記述」を軸とした過去問を見たとき、息子にとっては、もしかすると有利になるかもしれないと思ったのもたしかです。発達特性の影響で、息子は保育園のときから言葉の覚えが早く、小学校では作文を書かせてみると独創的で、言葉選びもおもしろいところがありました。発達障害の特性の面で見ると、記述力がアップして能力が開花したら受験でも良い結果が出るのではないか? 時間がなかったので、そう思い込み、対策を続けました。

 息子は最後までそんな私を信じ、精いっぱい頑張ってくれました。このように2カ月間、一般的ではない受験勉強をした結果、息子は麻布中学に合格しました。

ギフテッドと発達障害の子の才能を生かすのは周囲の理解次第

 息子が麻布中学に合格したことで、メディアで取り上げられることが増えました。ただ、「2カ月の勉強で麻布中学に合格した」というのは、語弊があります。息子はたしかに高いIQを持っていますが、だからといって勉強ができるとは限りません。集中力が続かない、興味関心のないことに取り組めない、学校の授業は立ち歩いてしまう、字を書けない、ノートがめちゃくちゃなど、息子の発達障害の特性は多くの場面で学力向上の妨げになりました。

 でも、たった1時間だけ、小学1年生のときからコツコツ勉強していました。病院の待ち時間や、空港の乗り継ぎ時間など10分のスキマ時間を活用して勉強しました。天才的な才能で合格したのではなく、できることをできる範疇(はんちゅう)で積み重ねた結果だと思います。

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