近年、子どもの骨折が増加しており、その理由としてよく語られるのが、運動能力の低下です。でも、水泳やサッカーなどスポーツ系の習いごとをする子どもは増えているような……? そんな疑問を東京大学の客員研究員であり公衆衛生学が専門で、年間500本以上の論文を読破する柳澤綾子医師にぶつけると、より根深い問題が浮かび上がりました。柳澤医師が重要視する「日常生活における協調運動」とは? ※前編<子どもの骨折が30年前の1.5倍にも増えたのはなぜ? ”論文マニア”の東大医学博士ママが語る、骨折増加の背景>から読む
【図】「しゃがめない」「朝礼でたっていられない」”子どものロコモ”の調べ方階段を「手すりなし」で下りることができない
――前回の記事では、子どもの骨折が増えている現状を紹介しましたが、その要因は何だと思いますか。
子どもの運動の量、質ともに低下し、危険を回避する身体能力や骨の強度が下がっていることが要因の一つだと思います。その背景として、ゲームの普及や外遊びの減少、新型コロナの流行で閉じこもりがちになったことなどがよく言われています。さらに広い視点で見ると「日常生活における全身の協調運動」の不足も影響しているのではないかと、私は考えています。
わかりやすく言うと、世の中が便利になって階段を上り下りする機会が減りましたよね。駅のバリアフリーもそうですし、マンションでは自宅の中に階段がありません。最近は、手すりがないと階段を下りられない子どもが多いとも聞きます。階段を下りるには左右の足の歩幅やタイミングなどを協調させる必要がありますが、日常生活の中でそうした動作をする機会が減っているのです。
長年、放課後の公園遊びを見守っているNPOの人が話していたのですが、公園の池の飛び石を走って渡れる子どもが明らかに減っているそうです。走ってきてスピードを調整しながら、跳びはねる力やタイミングを目測する。もともとは日常的な遊びの中で獲得していた運動能力ですが、それが養われないまま体が成長しているのでしょう。小学生に跳び箱で骨折をする子どもが多いのは、「走る」「手をつく」「跳ぶ」という一連の協調運動ができていない可能性があります。
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