おすすめポイント

『天使のかいかた』というタイトルにまずはワクワクしてしまうのでは? 「天使の飼い方って?」「そもそも天使って何だろう?」と、次から次へと“はてな”が浮かんで、想像がふくらみます。

 もちろん主人公のさちも天使を拾ってはみたものの、飼い方なんて知りません。本を探しても誰に聞いてもわからない。でも、とりあえず自分でいろいろやってみようと、わからないなりに自分で考えて試行錯誤を重ねていく姿勢は見習いたいところです。天使のごはんが「おはなし」だと知り、色々なおはなしを天使に語っていくなかで、さちは飼い主である自分のことを話すと天使が喜んでおなかいっぱいになることに気がつきます。

『天使のかいかた』(なかがわちひろ作/理論社刊)

 天使を飼うことができてめでたし、めでたし、というわけではないのが本作の肝。あるとき、友だちが誰からともなく転校生のきのこちゃんの悪口を言い始めると、さちもまわりに流されて、大好きなきのこちゃんのことを悪く言ってしまいます。それ以来、さちは心がモヤモヤして、天使におはなしができなくなってしまい……。「きのこちゃんが好き」という自分のほんとうの気持ちにふたをしてしまったせいで、天使にごはんもあげられず、飼い主失格です。

 何日かしてすっかり弱ってしまった天使を目の当たりにし、あわてて天使のお世話を再開するさち。「サチ、オハナシ……」と天使に促されて、楽しいことだけじゃなく、悲しいことやつらいことも含めて自分のほんとうの気持ちを伝えることが大事なんだと気づかされます。広い空の下、さちの心が軽くなっていく様子は、読んでいるこちらの心もふわっと宙に浮くかのような不思議な感覚をおぼえます。作者のなかがわさんならではの文章のリズムや見せ方、絵の構図だからこそなせる技です。

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