成長の速さに注目し、薬の原料などをつくるために活用
「私の研究の場合、ふつうの植物で1年かかるところが、ゼニゴケなら1カ月でできるのです。しかも、一度に遺伝子を五つ、六つと入れられます。ゼニゴケを有用な物質をつくる研究に使わない手はない! そう思って3年前、石崎さんに共同研究の提案をしました」(水谷さん)
ゼニゴケは成長が速くてすぐに繁殖することから、盆栽などの世界では「厄介者」とされている。しかし、発想を転換すれば、そんなゼニゴケの特徴を役立つように利用できるというわけだ。
こうして二人の共同研究はスタートし、やがて二つの計画が立てられた。一つは、水谷さんの専門である、ゼニゴケにビタミン、ポリフェノール(※)、薬の原料などをつくらせる研究を進め、できた製品を販売していこうという計画。もう一つは、ゼニゴケを食品として広めていこうという計画だ。
研究室で育てたゼニゴケがおいしい理由は?
私たちの食べ物の大半は植物だ。米や麦、イモ類、野菜、果物などは、被子植物の実や茎・葉・根などを食べている。被子植物以外では、裸子植物(ギンナン、松の実など)、シダ植物(ワラビ、ゼンマイなど)がたまに食卓にのぼるが、コケ植物はまったく食べられていない。理由は、「まずいから」。自然の中で育っているゼニゴケは、虫やウイルスなどの病原体、乾燥などのストレスに抵抗するため、有毒成分を蓄えていることが多い。そのため、まずくて食べられないのだ。
一方、石崎さんが研究室で栽培しているゼニゴケは、30年ほど前、京都の宝ケ池で採集した株で、それが今も栽培され続けている。食品にしようとしているのは、このような研究室で栽培するゼニゴケだ。
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