安全・快適な研究室で特別な方法で育てているゼニゴケは、身を守る必要がないから、ストレスに抵抗するための有毒成分をつくらない。だから、野菜のように食べられるのだ。

 生で食べるとレタスのようなシャキシャキ感があるという。天ぷらにしたり、クッキーの生地に練り込んで焼いたり、オムレツに入れたりするとおいしいと、試食した人たちにも評判だ。乾燥させてチップスにしたものは、のりのような味や食感があるそうだ。栄養面でも、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富なほか、ホウレンソウの25倍以上の鉄分、健康に欠かせないとされるEPA、DHAなどの油も含んでいる。

食べられるゼニゴケ。生はレタスのようにシャキシャキしているという
ゼニゴケ入りのオムレツ
ゼニゴケの天ぷら
ゼニゴケ入りのクッキー

少ない水や光で育ち、二酸化炭素も吸収。地球温暖化対策や宇宙食の可能性も

 しかも、ゼニゴケは成長するときに、同じ栽培面積のスギ林と同じぐらい二酸化炭素を吸収するという。たくさん栽培すれば、地球温暖化を抑える効果も期待できるのだ。石崎さんによれば、「根がないゼニゴケは土を必要とせず、布の上で育てることもできます。光や水が少なくてすむので、10段ぐらい棚を重ねて栽培すれば、面積あたりスギ林の10倍ぐらい二酸化炭素を吸収できることになります」とのこと。

 水谷さんは、こんな夢も思い描いている。

「二酸化炭素をたくさん出す工場に隣接した植物工場でゼニゴケを育てれば、二酸化炭素をそのまま吸収して、ゼニゴケを栽培できます。食品としてのゼニゴケだけでなく、ゼニゴケにビタミンなどをつくらせれば、そのまま食べる薬にもなるでしょう」

 少ない水や光で育ち、二酸化炭素もたくさん吸収するゼニゴケのすぐれた特徴は、宇宙ステーションや宇宙船の中で栽培するのにも適していると考えられ、注目されている。

 こんな話を聞かされると、ゼニゴケを食べてみたいと思うかもしれない。でも、自然に生えているゼニゴケは毒がある可能性があるので、絶対に食べてはいけない!  食品としてスーパーで売られるまでにはまだ数年かかりそうだが、辛抱強く待ってから味わおう!

庭の片すみなどに生えているゼニゴケ。毒がある可能性があり、まずくて食べられない

(画像・データ提供 神戸大学大学院石崎公庸教授・水谷正治教授)

文/上浪春海

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