「良太の方が好きなんやろ。お母さんとお父さんは、私なんていらんかったんやろ!」って、爆発しちゃったことがありました。そのとき母はショックを受けたみたいで、それ以降はことあるごとに「奈美ちゃんが一番大事やで」と言うようになりました。
実は弟にも「あんたが一番大事やで」と言っていて、それは大人になってから知ったんですけどね。つまり、そこからお母さんの「二枚舌外交」が始まっていたんです(笑)
「良太じゃなくて、奈美ちゃんが大事やから」「奈美ちゃんが幸せじゃなかったら、障害者の姉ちゃんやからって、弟と一緒におらんでいい」「学校でも嫌ったら、弟やって言わんでいいよ」
そこまで言う?と、驚くようなことまで言ってくれるんですよ。
でも、そこまで言ってくれたから、私は「家族のせいで何かを犠牲にした」という感覚がまったくないんです。
きょうだいが障害者だったから、そのせいで自分の人生を邪魔された、無限にあったはずの自分の可能性を家族の都合で狭められてしまった、みたいな話はよく聞くけど、そうなると家族を恨んじゃって、何年もかかる呪いになってしまう。
それがまったくなかったのは、母の「二枚舌外交」のおかげだなと思っています。
※<作家・岸田奈美が語る、母の一番好きなところ 「ようそんなに喜べるなぁ…と感心するくらい本気で感動する」>に続く
国道沿いで、だいじょうぶ100回
岸田 奈美
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