中学募集が定員に近い合格数しか出さないのに対して、高校募集は定員を大幅に超過した合格数を出します。これは高校募集に辞退者が多いためで、募集定員以上に合格が出ます。

  高校募集で辞退者が多い理由の一つが、日程の分散です。たとえば、高校受験で早稲田大学高等学院を志望する受験生は、慶應義塾高校を併願できます。さらに、慶應志木の一次試験や早稲田大学本庄も受けることができます。併願できる数が多い分、ダブル合格が多く、辞退者が増えるのです。また、大学附属校が首都圏の公立・都立難関校の併願校として機能していることも、辞退者が増える要因です。

私立高校は「コース制」が主流になった

  進学校系の私立高校の話に移行しましょう。東京の私立高校は、一部の難関校を除けば「コース制」が主流です。これは、一つの高校内に異なる学力層を対象とした複数のコースが設けられていることを意味します。コース制は、私立高校が学力上位層を集めるための工夫によって生み出された産物です。

  1学年6クラス、偏差値55の私立高校があったとしましょう。この学校が学力別に3つのコースを作ります。そうすると、学力の最も高い生徒たちが集まる特別選抜コースは偏差値60、次いで選抜コースが偏差値55、それ以外の進学コースが偏差値46になります。

  高校受験ガイドブックやウェブサイトで記載される偏差値は、最上位の特別選抜コースの60になります。偏差値55の私立高校が、学力別コースを三つ作るだけで、見かけの偏差値がつり上がりました。翌年から学力上位の受験生が集まりやすくなります。少し意地悪な言い方をするならば、このような「偏差値操作」によって、生徒の学力層はそのままに学校のイメージを良くすることが、コース制の真の狙いです。言い換えると、コース制の私立高校の偏差値は当てにならないのです。

  私立中学受験塾がこんな話を保護者にしていました。「中学受験では偏差値40台の私立中学が、高校受験になると偏差値60の難関校になるので、中学受験で入学したほうが得」中学受験と高校受験の偏差値の違いや、コース制のカラクリを知っていれば、これを真に受けてはいけないことがわかると思います。極論をいえば、コース制による偏差値のつり上げが横行して、もはや東京の私立高校において、「偏差値」はあまり意味のある指標ではなくなりました。関西の私立高校が最初にこの手法を「発見」して、首都圏の私立高校にも持ち込まれ、偏差値を上げる手段として広まってしまったようです。

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