東日本大震災発生時に3~5歳だった被災地在住の保育園児とその保護者を対象にした別の調査では、震災前の子どものトラウマ体験があると発災後の行動上の問題が長引くことが示されました。社会的なつながりが母親の精神状態を支え、それによって子どもの行動上の問題が改善されることも示されています(#2,3)。
中国で起きた四川大地震(2008年)に関する長期的な研究では、慢性的な心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を持つ母親の子どもたちは、地震発生10年後にPTSDと不安の症状が高いレベルで報告されていることが明らかにされました(#4)。これらは、親、特に母親の心理状態が子どもたちの長期的な心の健康に重要な役割を果たすことを示唆しています。
また、別の研究ではハイチ地震(2010年)における子どもたちの心の健康と発達に対する深刻な短期および長期の影響が報告されており、子どもたちの心の健康を守るための包括的な災害準備プログラムの必要性が強調されています(#5)。
このように、大規模な災害は、親だけでなく子どもの精神的な健康に深刻な影響を与えることが言われているのです。
傷ついた子どもの心を守るためにできることは
では被災した子どもの心は傷ついたままで、そのトラウマの治療は諦めるしかないのでしょうか。いえ、そうではありません。心理的なアプローチを行うことは有効であると広く示されています。
心理的アプローチは、PTSD症状を有する子どもと青少年に対して有効であり、WHOでは特に「認知行動療法」(CBT)、「眼球運動の減感作と再処理」(EMDR)が効果的であることが示され、推奨されています。
認知行動療法(CBT)は、災害によりPTSDを発症した人々に対して最初に選択される治療法で、研究(系統的なレビューとメタアナリシス)によると、PTSDの症状を減少させることが示されています(#6)。特に、EMDRは、震災生存者の心理的苦痛の治療において効果的かつ効率的なアプローチであり、PTSD症状、不安、抑うつなどを統計学的に有意に減少させることができると示されています(#7)。
次のページへ子どもの回復のために、様々な分野の大人の協力が必要