矢萩:頭ではわかっているけれど、どうしても正解を求めてしまう、という悩みもよく聞きますけれど、答えを求めること自体はいいことなんです。メーテルリンクが書いた『青い鳥』って童話があるじゃないですか。あれはチルチルとミチルが青い鳥を探して旅に出るんですけど、実は青い鳥は最初からそこにいた、という話なんですね。あれも青い鳥を見つけることより、その旅をしたこと自体にかけがえのない意味があるっていう。先ほどおおたさんがお話しした松尾芭蕉の話もそうですが、目標地を設定することも必要なんですが、過程のほうが大事かもしれない、というビジョンを持っているだけでもすごく気は楽になると思います。親が不安になることは仕方ないけれど、不安を煽るものに親が巻き込まれ、その結果、犠牲になっている子どもたちをたくさん見てきている身としては何とかそれを防ぎたいっていう気持ちは大きいですね。大丈夫だから、青い鳥はここにいるから、って言いたい。

おおた:そうそう。正解を求めようとするんであれば、求め続ける旅をしてください、と。それが青い鳥の話なわけじゃないですか。どこだどこだ、って探し回ってようやく目の前にあることに気づける。いきなりは見つからないんです。あとは自分が選択したものをいかに正解にしていくことができるか、正解を事後的につくることができるか、という視点が重要になってくるんだろうと思います。旅の中ではときどき選択を迫られる。どの道を行くのが正解かなんてわからない。だったら、選んだ道でしか見られない景色を満喫し、そこでしか得られなかった出会いに感謝し、「この道を選んで良かった」と思えるようにすればいいんです。

矢萩:僕の『正解のない教室』でも書きましたが、リベラルアーツ的な思考というのは自分で主体的に決めることが何よりも大事なんです。主体的に決めればどんな道を選んだとしても後悔はしない。自分で決めて歩んだ経験を不正解だったかもしれないって思うことにあまり意味がないんです。中学受験でよくある話だと、親が勝手に絶望してしまって、その絶望が、特に絶望も挫折もしていなかった子どもに波及していってしまうという問題。子どもは強いし、基本的に割と目の前のことしか見てないから大丈夫なんですけれど、親のほうが過去のことを持ち出してあれは失敗だったと解釈をねじ曲げちゃうんですよね。未来のことを語るのはまだいい。少なくとも過去のことを、失敗や不正解だったとは言わないことです。

(構成/教育エディター・江口祐子)

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矢萩邦彦
中学受験塾塾長 矢萩邦彦

やはぎ・くにひこ/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

おおたとしまさ
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