サンマ裁判を起こした魚商、玉城ウシ(c)沖縄テレビ放送
サンマ裁判を起こした魚商、玉城ウシ(c)沖縄テレビ放送

 アーカイブとして眠る何十年も前の映像、1つのテーマを掘り下げて撮りためられた映像……。ローカルテレビ局がその強みを生かして制作したドキュメンタリー映画に注目が集まっている。上映中の沖縄テレビ制作「サンマデモクラシー」やKSB瀬戸内海放送制作「カウラは忘れない」も好例だ。歴史に埋もれた映像や物語が、現代をビビットに照らし出す。

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「サンマデモクラシー」は、米国による沖縄占領が続いていた1960年代、サンマへの課税がきっかけとなり、一人の沖縄の女性が米国高等弁務官のキャラウェイや琉球政府に挑んだ裁判を描く。監督・プロデューサーは沖縄テレビの山里孫存さん。「玉城ウシという1人の魚商の女性が大きなうねりを起こしていったことが面白かった。沖縄の本土復帰(1972年)後50年の節目も近いこともあって、歴史を見直す中で、この事件が後続の沖縄の様々な運動のもとになっているのではないか、と引き込まれていった」と話す。

サンマ裁判で弁護に立った下里ラッパ。破天荒な人物だったという(c)沖縄テレビ放送
サンマ裁判で弁護に立った下里ラッパ。破天荒な人物だったという(c)沖縄テレビ放送

 玉城ウシの奮闘につられるように、弁護人の下里ラッパ、名物の国会議員、瀬長亀次郎ら沖縄の民主主義運動を支えてきた魅力的な人物もクローズアップされる。米軍普天間飛行場を辺野古に移設する計画をめぐり、翁長雄志知事と菅義偉官房長官(当時)が会談、翁長知事が、米軍占領時、「沖縄の自治は神話」と語ったキャラウェイ高等弁務官の姿と菅氏が重なる、と言及する部分も収録されている。

■「対立」が落とす影

 過去から現在へと一貫する沖縄の民主主義樹立への悲願が層をなして、数少ない映像しか残っていない女傑・玉城ウシを実在した人物として浮かび立たせてくる。晩年、亡きわが子を思い出して口にした「赤い靴を買ってあげられなかった」という悔恨の述懐は胸を打つ。

「サンマデモクラシー」の監督・プロデューサー山里孫存さん(c)沖縄テレビ放送
「サンマデモクラシー」の監督・プロデューサー山里孫存さん(c)沖縄テレビ放送

「第2次大戦から米国による統治、そして、日本への復帰。でも、望んだ復帰とは違う沖縄の現状にまで、対立が影を落としている」と山里さん。重く激しい歴史の脈動を描きつつ、沖縄出身の落語家の軽妙なトークやナレーションも交えて、親しみやすく仕立てている。

 一方、「カウラは忘れない」は、KSB瀬戸内海放送の満田康弘さんが監督を務めた。前作のドキュメンタリー映画「クワイ河に虹をかけた男」の主人公にカウラ事件を教えられたという。

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