4月5日、プーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領はモスクワで会談した。NATO諸国への対応や戦術核について話し合ったとみられる(写真:ロイター/アフロ)
4月5日、プーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領はモスクワで会談した。NATO諸国への対応や戦術核について話し合ったとみられる(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナやNATO、欧米諸国へ、プーチン大統領による「核の脅し」が続いている。プーチン氏の狙いはどこにあるのか。AERA 2023年4月17日号から。

【地図】カリーニングラードはポーランドとリトアニアに挟まれたロシアの飛び地

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 核兵器をちらつかせながらウクライナへの侵略を続けているロシアのプーチン大統領が、脅しのギアをまた一段上げたようだ。

 プーチン氏は3月25日、隣国のベラルーシにロシアの戦術核を配備する計画を発表した。ロシア国営テレビのインタビューに対して、ベラルーシの軍用機10機がすでに準備態勢を整えたほか、核兵器を搭載可能な短距離弾道ミサイル「イスカンデル」をベラルーシに引き渡したと述べた。7月1日までに、ベラルーシ領内に戦術核の貯蔵設備の建設を終えるという。

 戦術核とはいったいどんな兵器だろうか。

 米ロの核兵器は、戦略核と戦術核に大別される。戦略核は、長距離ミサイルや爆撃機に搭載されて、米国とロシアが互いに相手を直接攻撃する役割を担う。これに対して戦術核は、欧州などの戦場で使われることが想定されている。

 つまりロシアは、ベラルーシを拠点に、ウクライナや北大西洋条約機構(NATO)を核攻撃できる態勢を整えるということになる。

■報復の危険を避ける

 しかし多くの専門家は、ベラルーシに戦術核を置く軍事的な意味はほとんどないと指摘する。理由は簡単だ。

 ウクライナとロシアは長い国境で接する隣国だ。ウクライナの戦場で戦術核を使うのであれば、ロシア国内からミサイルや爆撃機を飛ばせば済む話だ。

 NATOの国々に対しても、事情は同じだ。ロシアはバルト海沿岸にカリーニングラードと呼ばれる飛び地を持っている。ポーランドとリトアニアにはさまれており、ベラルーシよりも西に位置している。NATOに攻撃するのであれば、ここを拠点にすればよい。

 では、プーチン氏の狙いはどこにあるのだろうか。

 一つには、ベラルーシに核を使わせることで、自らに報復が及ぶ危険を避けるという動機が考えられる。

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駒木明義

駒木明義

2005~08年、13~17年にモスクワ特派員。90年入社。和歌山支局、長野支局、政治部、国際報道部などで勤務。日本では主に外交政策などを取材してきました。 著書「安倍vs.プーチン 日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか」(筑摩選書)。共著に「プーチンの実像」(朝日文庫)、「検証 日露首脳交渉」(岩波書店)

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