
「日本代表の先輩に『そんなにカエルが好きなら大学院に行けばいいのに』と言われて、そういう選択もあるんだ、と。そのとき、研究者になる目標が芽生えました」
理系の受験勉強は未知の分野への挑戦だったが、苦痛は感じなかったという。むしろ、「カエルを守るにはどうすればいいのか」を掘り下げて考えることに夢中になった。どんなに疲れていても毎日、机に向かった。大学院試験の直前には5~6時間かけて専門書を読みあさった。
「研究者になれれば、カエルのことだけに専念していても咎められないどころか、論文として発表できれば褒めてもらえる。そういう世界に自分が携われるかもしれない、ということに心を揺さぶられました」
■逃げ道を作らないため
入江さんの「研究生活」はすでに始まっている。入学前の個別面談で、大学院の指導教員から来春をめどにヒキガエルの論文をまとめるよう指示された。このため2月以降、ヒキガエルの生態調査に取り組んでいるという。
「今はヒキガエルの繁殖期なので、入学前だけど、このシーズンを逃すのはもったいない、と思って調査を始めています」
早くもカエル研究に情熱を傾ける入江さん。ツイッターのプロフィール欄には「ボクシング(日体大)→カエル(農工大)」と書かれている。とはいえ、ボクシングとカエルの“二刀流”という選択は考えなかったのか。
「趣味でやるのは私の性分に合わなくて。ボクシング同様、カエルの研究も究めたいと思っているので、私はキャパが狭いのだから1本に絞ろうって決めました」
ほかにも理由がある。
「ボクシングを続けていると、金メダリストの称号があるおかげで、そっちに甘えちゃいそうだなとも。逃げ道を作らないためにも、ボクシングは区切りをつけようと思いました」
ボクシングとの出合いは小学2年生のとき。自宅にあったボクシング漫画『がんばれ元気』を読んで感動し、鳥取県米子市内のジムに通い始めた。だが、ボクシングが「純粋に楽しかった」時期はそう長くはなかったという。中学校時代は中学の部で全国大会2連覇。高校3年生で全日本女子選手権のシニア(大学生、社会人)初優勝。19年には世界選手権で8強入り。女子アマチュアボクシング界で見る見る頭角を現した入江さんには、早くから周囲の「五輪」への期待がのしかかった。