内閣総理大臣賞を受賞した「宮崎牛」を贈呈され、試食する岸田文雄首相/2月16日、首相官邸
内閣総理大臣賞を受賞した「宮崎牛」を贈呈され、試食する岸田文雄首相/2月16日、首相官邸

 岸田文雄内閣の支持率は下げ止まり感が出ているものの、相変わらず低迷している。 理由として「庶民の声が届いていない」との指摘がある。それはなぜか。AERA 2023年3月6日号の記事を紹介する。

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 元福島県知事の佐藤雄平氏(75)が言うように、岸田首相に「庶民の声が届かず」「土の匂いがしない」のはなぜか。岸田首相の周りには、中央官庁の事務次官級の経験者がそろっている。外交・安全保障を統括する国家安全保障局長は秋葉剛男元外務事務次官、官邸事務方トップの官房副長官(事務)は栗生俊一元警察庁長官、首相の首席秘書官は嶋田隆元経産事務次官、防衛担当の官房副長官補は高橋憲一元防衛事務次官という顔ぶれだ。

 霞が関の官僚たちは、この次官OBらを通じて政策を進めようとする。岸田首相の元には、役所の「やらなければならない政策リスト」が次々と届けられる。法人税や所得税の増税、防衛費の増額、原発再稼働──。昨年の参院選前までは、岸田首相の側近から役所に対して「国政選挙で自民党が勝つまで、難しい案件は持ち込むな」という指示が出ていた。参院選後は、場合によっては3年間、衆参両院の選挙がなくて済む「黄金の3年」になるので、難しい案件はその3年間に処理しようという意味でもあった。その結果、防衛費増額や原発再稼働などの案件が首相に届けられた。

AERA 2023年3月6日号より
AERA 2023年3月6日号より

■パイプが欠けている

 歴代政権では、官房長官が首相の「盾」となって官僚からの要求をさばいた。小渕恵三政権の野中広務官房長官、小泉純一郎政権の福田康夫官房長官といったベテラン政治家は「政治判断」をして各省庁に要求を突き返したが、岸田政権の松野博一官房長官には荷が重い。役所の要求が官邸にいる事務次官OBの手を借りて、そのまま通っている。原発事故の被災者やミサイルが配備される沖縄県の住民、子育てに苦労する人たちという庶民の声は高級官僚には届きにくい。それが岸田政権の「弱点」になっていることは明らかだ。

 岸田氏が会長を務める宏池会は官僚出身者が多く、「お公家集団」といわれてきた。それでも、歴代会長は庶民派の政治家と組むことで弱点をカバーした。ともに大蔵官僚出身の大平正芳、宮澤喜一両氏はそれぞれ、「今太閤」の田中角栄氏、武闘派の梶山静六氏を頼りにした。外務官僚出身の加藤紘一氏は、幹事長時代に町長出身の野中広務幹事長代理から助言を聞いた。岸田政権には、そんな「庶民の声」とのパイプが欠けている。

 冒頭の佐藤氏は「岸田政権に代わる政権をつくらないと日本がおかしくなる。安定感のあるのは野田佳彦元首相。野党と自民党の一部が結集して野田氏を擁立し、自民党に対抗する勢力ができないかと期待しているのだが……」という。だが、その展望はなかなか見えてこない。(政治ジャーナリスト・星浩)

AERA 2023年3月6日号より抜粋