金正恩・朝鮮労働党委員長(当時)は妻の李雪主氏とともに平壌国際空港で文在寅・韓国大統領夫妻を出迎えた/2018年9月18日、平壌(photo:gettyimages)
金正恩・朝鮮労働党委員長(当時)は妻の李雪主氏とともに平壌国際空港で文在寅・韓国大統領夫妻を出迎えた/2018年9月18日、平壌(photo:gettyimages)

 韓国大統領選で最大野党「国民の力」の尹錫悦氏が、大接戦の末に当選した。過去最悪とも評される日韓関係は改善するのか。元駐日韓国大使の2人に関係改善のポイントを聞いた。AERA 2022年3月21日号から。

【写真】激戦を制して第20代韓国大統領に選出された尹錫悦氏

*  *  *

 日韓外交に携わった当局者たちの間で、強固な信頼関係を結んだ日韓両首脳として名前が挙がるのが、中曽根康弘首相と全斗煥(チョン・ドュファン)大統領、小渕恵三首相と金大中(キム・デジュン)大統領の2組だ。

 中曽根氏は首相就任直後の83年1月、最初の外遊先として韓国を訪問。夕食会の冒頭、「ヨロブン アンニョンハシムニカ(皆さん、こんにちは)」とあいさつし、万雷の拍手を浴びた。当時、ソウルの大通りには戦後初めて日の丸の旗が掲げられた。全氏は涙を流して喜び、深夜に中曽根氏を大統領府に招いて午前3時まで酒を飲んだという。

■小渕氏と金大中氏

 中曽根訪韓の準備に携わった町田貢元駐韓公使は「中曽根さんのスピーチは過去の謝罪を巡る表現は弱かったが、ものすごく評価された。要は言葉ではなく、韓国人の琴線に触れることが重要だ」と説明する。小渕氏は外相時代の97年12月、ソウルで大統領選に勝利したばかりの金氏と面会。小渕氏の依頼で、金氏は「敬天愛人(天を敬い、人を愛する)」と揮毫(きごう)した。小渕氏は「政治家としてあなたを尊敬している」と語りかけたという。小渕氏は98年7月に首相に就任。両氏は同年10月に「日韓関係で最高の政治文書」と評される日韓共同宣言を実現させた。

 当時の関係者によれば、共同宣言で最も重要なポイントは「痛切な反省と心からのお詫び」を述べた小渕首相に対し、金氏が「真摯に受けとめ、これを評価すると同時に、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明した」という記述だったという。関係者の一人は「日本が謝るだけでは意味がない。韓国が評価して先に進む意思表明をして初めて、日韓関係が発展する」と説明する。

 では、果たして岸田文雄首相と尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領との間に強い信頼関係が結ばれるだろうか。

次のページ