ドイツ・ベルリンのブランデンブルク門前では、ロシアのウクライナ侵攻に抗議する大規模なデモが行われた/2月27日(写真:gettyimages)
ドイツ・ベルリンのブランデンブルク門前では、ロシアのウクライナ侵攻に抗議する大規模なデモが行われた/2月27日(写真:gettyimages)

 ロシアがウクライナへの軍事侵攻に踏み切り、両軍の激しい戦闘が続いている。「戦争」は、矛盾を抱えながらかろうじて維持されてきた世界秩序の「軋み」をあらわにした。AERA 2022年3月14日号で、「NATOの今後」について、東野篤子・筑波大学人文社会系准教授(国際関係論・政治学)に聞いた。

【時系列にわかる「ウクライナを巡る動き」】

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 NATO(北大西洋条約機構)は今回、ウクライナでの戦闘に軍事介入するのか。その可能性は限りなく低いと思います。NATOは軍事同盟であり集団防衛機構です。非加盟国のウクライナは北大西洋条約の第5条にある集団防衛の対象から外れます。ウクライナと国境を接するポーランドと、バルト3国は加盟国なので全力で防衛する。でもウクライナにはNATO諸国が武器供与はするけれど、基本的にはウクライナが自分で戦って持ちこたえてもらうしかない。加盟国か非加盟国かでは、ここまで純然とした差があるのです。

 そのNATOにウクライナは長年、加盟を求めています。2008年4月のブカレスト首脳会議では「将来的な加盟」を認められてもいる。では、なぜいまだ加盟を果たせていないのか。

 北大西洋条約の第10条には、加盟国の条件として「安全保障上の貢献者でなければならない」とあります。ところがウクライナは14年、ロシアにクリミアを占領され、ドンバスも事実上支配下に落ちている。ロシアとの有事で解決に貢献するどころか「支援を求める側」です。加盟条件である軍の近代化などの改革も遅れている。NATOはウクライナを「入れられない」のです。とはいえ、ロシアが求める「ウクライナ非加盟の確約」にもNATOは応じられない。なぜなら「同盟選択の自由」はヨーロッパ安全保障秩序の大原則。ここは妥協できないのです。

AERA 2022年3月14日号より
AERA 2022年3月14日号より

 今回、NATOにも責任の一端があります。今にして思えば、ロシアとの相互理解に向けた働きかけがもう少し粘り強くなされていれば、事態は異なっていたかもしれません。たとえば「02年、プーチン政権下での『NATO・ロシアローマ宣言』で、ロシアはバルト3国のNATO加盟を黙認したはず」と安心しきっていた面があります。ロシアはそれをずっと長い間、忸怩(じくじ)たる思いで見てきたでしょう。対話不足によるそんな根本的なボタンの掛け違いも、今回の事態につながっています。

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