東大在学中にバイト感覚で「年1千万円」稼いだ過去も 30代起業家がAIで「情報の海に溺れた人々」を救うまで

起業は巡る

2022/02/27 11:00

林達(はやし・たつ)/1986年生まれ、東京都出身。35歳(撮影/写真部・松永卓也)
林達(はやし・たつ)/1986年生まれ、東京都出身。35歳(撮影/写真部・松永卓也)

 短期集中連載「起業は巡る」。第3シーズンに登場するのは、新たな技術で日本の改革を目指す若者たち。第2回は、膨大なニュースや社内データの中から興味・関心に合うものをAIが選び出して配信する「ストックマーク」社長の林達氏だ。AERA 2022年2月28日号の記事の1回目。

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*  *  *

「おーい林くん、植物油マーケットのここ5年の動き、ざっくりまとめといて。明日の午前のプレゼンで使うから」

 2013年のある日。伊藤忠商事の食料カンパニーの若手だった林達は、いつものように先輩に資料作りを命じられた。

(やれやれ、また数字と睨(にら)めっこか)

「ざっくり」といっても、輸出入の統計やら、各国の生産データやら、集め始めればキリがない。数字を羅列するだけではダメだ。相場が大きく動いている場面では、異常気象や政変の記事にも目を配る。先輩がどんなデータを欲しがっているのか忖度(そんたく)しつつ、数字にストーリーを持たせなくてはならない。

シャドーワークと格闘

 情報をどう武器にするか。それが商社員の腕の見せどころだ。先輩たちは豊富な人脈で情報を集め、長年の経験で培った勘で意思決定をする。だが、その前段階で基本的なデータの収集と解析が欠かせない。若手が延々とパワーポイントやエクセルと格闘するこうした仕事を林は「シャドーワーク」と呼んでいる。孤独で地道な作業だ。

(誰か代わりにやってくれないかな)

 この経験が起業のきっかけになった。林が16年に立ち上げたストックマークの主力サービス「Anews」「Astrategy」は、国内1万、海外2万のメディアから収集したビジネスニュース、あるいは社内にたまった膨大な資料をAI(人工知能)が解析し、利用者の興味・関心に合う記事を選び出して配信する。AIはボリューム分析、クロス分析、時系列分析など、人間では困難な作業をやすやすとこなす。優秀な秘書がいて、朝出社するとその日に知っておくべき情報を紙1枚にまとめて渡してくれる感覚だ。

 林は投資家に説明するとき、こう風呂敷を広げる。

「大企業で働くホワイトカラーは250万人。仕事の半分がシャドーワークだとすると、時給3千円で換算して8兆1千億円。我々が狙うのはこの市場です」

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