エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】北京街頭に設けられた五輪のモニュメント

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 こないだ夏のオリパラが終わったと思ったら、もう冬季大会です。オミクロン株の流行や人権問題でなかなか祝祭ムードにはならないですが、どうかアスリートが心穏やかに競技できますように。

 スポーツの話題の時に、いつも不思議に思うことがあります。なぜスポーツニュースのコーナーでは急に明るい音楽がかかり、キャスターが元気いっぱいの笑顔で喋(しゃべ)るのでしょうか。キャスターが毎度カメラの前に走り込んでくる演出もあったな。オリンピック中継やスポーツドキュメンタリーなどでは、感動的なムードを盛り上げますよね。実況で、凝った決め台詞(ぜりふ)を披露するアナウンサーも。こういう「スポーツ=明るく楽しく元気いっぱい、そして感動の涙」という雰囲気は、学校の体育の授業から漂(ただよ)っていたように思います。私はスポーツはさほど得意ではありませんが、見るのもするのも決して嫌いではありません。ただこの明るく元気に感動を!が、子どもの頃からどうも苦手でした。テレビを見ていて、ちょっとうるさいなと思うこともあります。ワクワクも感動も、見ている人が勝手にするので、そんなに「ほらここワクワク! ここ感動!」ってやらなくても大丈夫。私がセルフで感動する時間をください!と、つい思ってしまうことも。番組を作っている人やアナウンサーは根がとても親切なので、その分、ちゃんと伝わったかな?という不安も強いのでしょう。わかりやすくする工夫って、難しいですね。

北京街頭に設けられた五輪のモニュメント。北京冬季五輪は2月4日に開幕する
北京街頭に設けられた五輪のモニュメント。北京冬季五輪は2月4日に開幕する

 運動会で、事故の危険がある人間ピラミッドなどを「感動するから」と要望する親の声もあるといいます。もはや感動中毒です。赤ちゃんだった我が子の姿を思い出せば、ラジオ体操をしている姿でも感慨深いと思うのだけど。アスリートも子どもたちも、見る人の感動なんて請け負わずに、のびのびと挑戦できるといいですね。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2022年2月7日号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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