トンガ諸島の海底噴火の影響で、転覆、沈没した漁船/1月16日午前10時12分、高知県室戸市、朝日新聞社ヘリから
トンガ諸島の海底噴火の影響で、転覆、沈没した漁船/1月16日午前10時12分、高知県室戸市、朝日新聞社ヘリから

 トンガ諸島で1月15日に発生した海底火山の大規模噴火で、日本列島にも「津波」が押し寄せた。「津波」に関する情報で「最も早かった」とSNSなどの書き込みが相次いだのが、防災アプリ「特務機関NERV」だ。AERA 2022年2月7日号の記事を紹介する。

【画像】情報が最も早かったと話題になった「特務機関NERV」のツイートがこちら

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 およそ5年2カ月ぶりの津波警報だった。1月16日午前0時15分、気象庁は奄美群島・トカラ列島に津波警報、太平洋沿岸を中心とする広い範囲に津波注意報を発表した(のちに岩手県沿岸も警報に切り替え)。15日13時10分(日本時間)ごろに南太平洋・トンガ諸島で起きた噴火による影響だった。

 情報はスマホアプリやテレビの速報、エリアメール、防災無線など様々な方法で対象地域の人々に伝えられたが、「最も早かった」とSNSなどに書き込みが相次いだのが、防災アプリ「特務機関NERV(ネルフ)」だ。

 特務機関NERVは地震や津波、気象特別警報の速報や防災気象情報を国内最速レベルで配信する。アプリのほかにツイッターアカウントもあり、情報セキュリティー企業・ゲヒルンが開発・運営を手掛ける。名称の由来はアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する同名の組織で、版権元の「公認」だ。10人に満たない少人数のチームだが、アプリダウンロード数206万回、ツイッターフォロワー数140万人を抱えている。

津波警報・注意報を知らせる特務機関NERVのツイート。画像も情報受信とほぼ同時に自動で生成する(photo:ゲヒルン提供 特務機関NERVのツイッターから)
津波警報・注意報を知らせる特務機関NERVのツイート。画像も情報受信とほぼ同時に自動で生成する(photo:ゲヒルン提供 特務機関NERVのツイッターから)

■23万以上に通知送信

 この日、気象庁発の津波警報・注意報を受信した特務機関NERVが、受信内容を解析して対象端末を選び、通知を送り始めるまでにかかった時間は0.029秒。計23万6135デバイスにプッシュ通知を送信した。実際に通知が表示されるタイミングは通信環境などにも影響されるが、多くの端末にほかのアプリやテレビの速報より早く届いたと見られる。通知後はアプリへのアクセスが急増し、更新を求めるリクエストは1時間で250万回を超えたが、ひとつもエラーを出すことなく処理を完了した。開発者で、ゲヒルン代表の石森大貴さん(31)は言う。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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