中林美恵子(なかばやし・みえこ、左):1960年生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)。米ワシントン州立大学大学院修了後、米連邦議会・上院予算委員会で公務員として約10年間国家予算編成に携わる。衆院議員などを経て早稲田大学教授/宮家邦彦(みやけ・くにひこ):1953年生まれ。78年に外務省に入省し、在中国・在イラク大使館公使などを歴任。現在はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(写真:オンライン会議システム「Zoom」から)
中林美恵子(なかばやし・みえこ、左):1960年生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)。米ワシントン州立大学大学院修了後、米連邦議会・上院予算委員会で公務員として約10年間国家予算編成に携わる。衆院議員などを経て早稲田大学教授/宮家邦彦(みやけ・くにひこ):1953年生まれ。78年に外務省に入省し、在中国・在イラク大使館公使などを歴任。現在はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(写真:オンライン会議システム「Zoom」から)

 バイデン政権下で米国と中国の対立が激しさを増している。懸念される米中の台湾での衝突だが、もし起きた場合、日本への影響はどうなるのか。『米中戦争「台湾危機」驚愕のシナリオ』(朝日新書)の著者の宮家邦彦さんと、米国政治に詳しい早稲田大学教授の中林美恵子さんの二人がオンラインで語り合った。AERA 2021年12月27日号から。

【写真】10月、建国記念の日に相当する「双十節」であった台湾の軍事パレード

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──中国の軍事力については、米軍トップの統合参謀本部議長ミリー大将が10月、テレビのインタビューで、中国の新型極超音速兵器のテストが進展している状況について危機感を示していました。

宮家:個々の武器以上に米国の中国関係者や軍事関係者が懸念しているのは、システム・オブ・システム、つまり海軍や空軍のシステムの弱点を突かれることです。どんなに立派な武器があってもシステムを破壊されたら戦いようがない。中国も(サイバー空間や宇宙も含めた)統合戦をやるようになって、米国の統合戦のシステムをターゲットにしている。その恐ろしさを、どれぐらい我々が理解しているのか。加えて日本のシステムをどうやって守るのかということも考えていかなければなりません。

中林:中国はすべての手段を使ってくるし、(国内で)デジタルをすべて握っているので世論を分断するのも難しい。新型コロナウイルスへの対応を見ていても、米国などは世論が割れてしまう。民主主義がゆえの難しさを抱えていると感じています。

宮家:もう一つ忘れてはならないのは、安い労働力を使って「世界の工場」をやっている途上国はいずれ経済成長が頭打ちになる「ミドル・インカム・トラップ」(中所得国の罠)に陥ります。失業者が増えて生活が苦しくなって国内の社会的騒乱が起きることを中国は恐れています。

■可能性は排除できない

──台湾で米中が衝突する可能性はあるのでしょうか。

宮家:すべての可能性は排除できません。ただ、今の中国の力では、米国が参戦するなかで台湾に侵攻し占領できるとは思いません。失敗すれば中国共産党がすっ飛ぶリスクがありますから。ただ、何らかの理由で合理的な判断ができなくなると、ドンパチが起こり得る。その場合は当然、与那国島を含む沖縄県の一部は必ず戦場になるか侵害される。米中が衝突すれば、中国が在日米軍基地に対して攻撃する可能性ももちろんある。だから誤算が生じないように、我々は十分な抑止力を持って、混乱を起こすことは損だと思わせなければなりません。

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