BTSの国連総会でのスピーチとパフォーマンス動画は、10月13日現在、YouTubeで3千万回を超えて再生されている(photo:gettyimages)
BTSの国連総会でのスピーチとパフォーマンス動画は、10月13日現在、YouTubeで3千万回を超えて再生されている(photo:gettyimages)

 この生徒にBTSの魅力を尋ねると、「グク(JUNG KOOK)とテテ(V)の圧倒的ビジュアル」「ホソク(J-HOPE)とJIMINの人を惹きつける圧倒的なダンス。基礎がありすぎてレベルが違う」と、立て板に水を流すように答えてくれた。そして「やっぱり、何より、努力、努力で有名なのがバンタンだから」と話す。

「努力」の意味は、韓国と日本では天と地ほども違う。韓国では勉強、スポーツ、芸能など、あらゆる世界が競争の場と化している。小学校高学年になれば夜10時くらいまでの学院(塾)通いは当たり前。多くの自治体が「深夜11時から朝6時まで塾の営業禁止」という条例を設けているほどだ。韓国統計庁によれば、韓国の高校生の1日の平均課外学習時間は8時間以上にも及ぶ。BTSのリーダーRMも母親が熱心に語学教育を施した結果、ネイティブ並みの英語力を身につけたという。

 スポーツも、日本のような「学校教育の一環」「生涯スポーツ」という文化はない。運動部は一握りのエリートが、プロを目指して切磋琢磨する場になっている。

 2010年3月、日本の文部科学省関係者が韓国を視察した。同年のバンクーバー冬季五輪で韓国チームが金メダル6個などの好成績を収めたからだ。だが、関係者は「とても日本では真似ができない」とため息をついた。韓国が五輪メダリストらに最高月額100万ウォン(約10万円)の生涯年金を支給するなどしていたからだ。

 そんな競争文化を芸能分野に持ち込めばどうなるか。筆者は10年ほど前、当時最も勢いがあった4人組女性グループ「SISTAR」が所属する「STARSHIPエンターテインメント」を取材する機会があった。当時、この事務所には中学1年生から21歳までの男女15人の練習生が、合宿所と呼ばれるアパートで共同生活を送りながら、デビューの日を待ち続けていた。学校が終わるとダンスや歌の練習を午前零時ごろまで続ける。納得できなければ朝までやる。休みは平均で月1回ほどだという。それでも、デビューできずに事務所を去る子も大勢いる。デビューしても、成功するとは限らない。当時の事務所関係者は「芸能界で成功する確率は1%にも満たないかもしれない」と語っていた。

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