AERA 2021年9月27日号より
AERA 2021年9月27日号より

■個人の対策変わらない

 ただ、中和抗体の効きが悪くなっても、ワクチンが全く効かないということではない。東大医科研の佐藤佳准教授(ウイルス学)はこう説明する。

「ワクチンは血中の中和抗体の量を高く保つためだけに打つわけではなく、免疫の記憶をつくり、次に感染した際に免疫がウイルスを排除できるようにするために打つもので、血中の抗体が低くてもワクチンがミュー株に全く効かないわけではない」

 感染性の高さはどうか。コロンビアでは以前は主流だったガンマ株をミュー株が凌駕した。だが、日本と同様にデルタ株が主流の米国では、ミュー株が2千例以上流入したが、デルタ株を凌ぐ事態にはなっていない。このことからデルタ株ほどの強い感染力はないと見られている。

 佐藤准教授は新たな変異株の出現以上に、デルタ株が新たな変異を獲得し、流行する可能性を懸念する。実際、東京医科歯科大学は8月30日、国内で新たな変異が加わったデルタ株の市中感染事例が確認されたと発表した。また、大阪大学微生物病研究所は、デルタ株に特定の変異が四つ加わると、現在のワクチンの効果が大きく弱まる可能性があるとする研究結果をまとめている。

「どの変異株も新型コロナウイルスであることは変わらず、個人でとるべき対策は変わりません。ただ、どの株が流行しているのか把握することは、国の感染症対策として極めて重要。現在一部にとどまっているゲノム解析の体制を拡充することが必要です」(佐藤准教授)

(編集部・深澤友紀)

AERA 2021年9月27日号