のどかな景色の中を走る銚子電鉄。短い路線だが、ゆったりした旅の気分を味わえる。ぬれ煎餅以外にも魅力は満載 (photo 銚子電鉄提供)
のどかな景色の中を走る銚子電鉄。短い路線だが、ゆったりした旅の気分を味わえる。ぬれ煎餅以外にも魅力は満載 (photo 銚子電鉄提供)
ぬれ煎餅を手に持つ銚子電鉄の竹本勝紀社長。座右の銘は、「疾風に勁草を知る」だ(c)朝日新聞社
ぬれ煎餅を手に持つ銚子電鉄の竹本勝紀社長。座右の銘は、「疾風に勁草を知る」だ(c)朝日新聞社

 元々崖っぷちの銚子電鉄が、コロナ禍でさらなるピンチに陥っている。株主からは「鉄道廃止」発言も飛び出した。復活のカギは何か。AERA 2021年9月6日号から。

【写真】ぬれ煎餅を手に持つ銚子電鉄の竹本勝紀社長

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 煎(せんべい)屋になるのか──。

 千葉県銚子市で、6月30日に開かれた銚子電鉄(銚子市)の株主総会。筆頭株主の男性から、驚きの提案が飛び出した。

「私は(鉄道の存続は)無理だと思いますよ。副業を本業にして、従業員の雇用を守るべき」

 鉄道を廃線にして、煎餅屋になれと勧めたのだ。

 関東地方で最も東側を走る銚子電鉄は、全長わずか6.4キロ、最高時速40キロのローカル鉄道だ。1923(大正12)年に開業すると、70年代までは年150万人以上が利用していた。が、少子高齢化で利用者は減り続け、平成に入ると100万人を切り崖っぷち経営が続いた。

■なくすわけにいかない

 それを救ったのが「副業」で売り出していた「ぬれ煎餅」だった。2006年、運転資金がショートしそうになった時、公式サイトで「ぬれ煎餅を買ってください!! 電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」と異例の訴えをすると、多くの人の胸を打ち大ヒット。その後も次々と商品を開発し、万年赤字の鉄道事業を物販部門の売り上げで補填してきた。

 ところが昨年、創業以来のピンチに陥った。新型コロナによる外出自粛などで、乗客の7割を占める観光客が激減したのだ。最初の緊急事態宣言が出された昨年4月、1日の運賃収入がたった4480円の日も。「空気を運んでいる」とまでいわれた。

 かくして、20年度決算は鉄道部門の売上高が7856万円(前年度比22.1%減)。一方で、副業の物販部門はネット通販が好調で約4億円でほぼ平年並み。冒頭の筆頭株主男性の「鉄道廃止」発言は、そんな状況下で出たものだった。

「いつか終わりはくるだろう。しかし、今はそのときではない」

 と、強く反論するのは同社の竹本勝紀社長(59)だ。税理士でもあり、05年に銚子電鉄の顧問税理士になった縁で、12年に同社の社長に就任した。

「確かに、仮に私が顧問先として銚子電鉄を見るなら『鉄道はなくせ』というのは当然な意見。否定できません。しかし鉄道と副業は表裏一体。片方をやめれば、もう片方はダメになる。鉄道はなくすわけにはいきません」

 苦しい経営のかじ取りは続く。それでも「電車屋なのに自転車操業」と笑い飛ばし、愚直に頑張ると意欲を見せる。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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