山下和美(やました・かずみ)/1959年、北海道小樽市生まれ。横浜国立大学中退。80年、『おし入れ物語』でデビュー。2003年『天才柳沢教授の生活』で第27回講談社漫画賞一般部門、『ランド』で今年度第25回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞(撮影/写真部・東川哲也)
山下和美(やました・かずみ)/1959年、北海道小樽市生まれ。横浜国立大学中退。80年、『おし入れ物語』でデビュー。2003年『天才柳沢教授の生活』で第27回講談社漫画賞一般部門、『ランド』で今年度第25回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞(撮影/写真部・東川哲也)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

 建築を愛する漫画家の山下和美さんは、世田谷に立つ、水色の瀟洒な洋館・旧尾崎行雄邸に一目惚れ。しかし貴重な館は土地ごと売却される話が進んでいた。愛する館を守るべく、多忙な漫画の仕事の傍ら、著者は立ち上がる。SNSでの呼びかけに保存を望む声が続々と集まり、開発計画を阻止するために、区役所までも巻き込む事態に。そんな現在進行形の事態を描いたコミックエッセー『世田谷イチ古い洋館の家主になる』が刊行された。著者である山下さんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *

 歴史的な建築物が次々に取り壊されている。悲しいかな、日本では日常的な出来事だが、漫画家・山下和美さん(61)は立ち上がった。紆余曲折の末、世田谷で一番古い洋館・旧尾崎行雄邸(最近の文献調査により、館を建てたのは尾崎行雄の妻・テオドラの父、尾崎三良男爵と判明した)の家主になったのだ!

 山下さんといえば、本格的な数寄屋建築で自宅を造る経緯を描いた『数寄です!』シリーズもあり、作品に建築を印象的に登場させてきた。

 本書は山下さんがいかにして明治期に建てられた洋館を守り、家主になったのかについて描いた、現在進行中の実録コミックエッセーだ。

「初めて見たときから、素敵な洋館だなあと思っていました。建築関係の知人と、内部を見学させてもらう機会があって、当時の日本人の建築技術の高さや、暮らしてきた人たちの歴史を感じる建物にますます感じ入ったんです」

 そんなある日、山下さんの自宅を設計した建築家の蔵田徹也さんから、旧尾崎邸が土地ごと売りに出されていると知らされた。山下さんは「旧尾崎邸保存プロジェクト」(以下、保存会)を立ち上げ、代替案を提示して事業者と交渉を始めることに。

 漫画に描かれるそのやりとりは、シビアでハード。一方で、古い建築が解体されるプロセスがよくわかる、スリリングな「建築保存の実例紹介」にもなっているのはさすがだ。

次のページ