象徴天皇の振る舞い方を、渡辺さんと河西さんは語っている。「拝察」だとしても問題だと渡辺さんは指摘し、「拝察」という言葉の効用を河西さんは指摘した。どちらについても長官、そして陛下は十分に認識、その上での発言になったに違いない。

 そう思い、浮かんだのが「人類史上初の試練」という言葉だ。大げさかもしれないが、コロナ禍での五輪開催が、すっかり既成事実化している。どこの国も体験したことがない事態だから、陛下は動いた。そんなふうに感じたのだ。

 昨年、つまり令和2年目に入ってすぐ新型コロナウイルスが猛威を振るい、4月には最初の緊急事態宣言が出された。それから間もなく、「天皇のメッセージ」が話題になった。上皇さま、そして英国王室と比較して「今こそ、陛下のメッセージを」。そう求める論調は、メディアにもあった。
 
 上皇さまは平成時代、ビデオメッセージを2度出している。最初は2011年3月、東日本大震災発生の5日後。次は16年8月、退位の意向を強くにじませるものだった。またエリザベス女王は20年4月、早々にメッセージを公表、国民を強く励ました。

 だが、陛下が国民に新型コロナウイルスについて直接語ったのは、21年1月だった。一般参賀がとりやめになった代わりのビデオメッセージで、亡くなった人を悼み、医療従事者をねぎらい、感染者らへの差別などを案じ、最後に国民を励ますものだった。「優等生による無難な文章」のように感じた。憲法の規定をわかった上でも、一番のインパクトは雅子さまと並んで座る映像だと、そんな感想を持った。

 それから半年余り。突然の、開催への「ご懸念、ご心配」。長官による「拝察」にしても、無難さとは対極の大胆さ。それはどこから来たのだろうと考え、「人類史上初の試練」に行き着いた。

■コロナ禍での開会宣言

 開会を宣言するのは国家元首の役割だとオリンピック憲章に定められている。昭和天皇は1964年の東京五輪で、上皇さまは98年の長野五輪で、エリザベス女王は12年のロンドン五輪で開会を宣言した。だが、コロナ禍の五輪での開会宣言は、陛下が初めてなのだ。

 24日の定例会見では、「中止論もある中で、陛下が大会開催を祝福するような文言を述べるのはどうか」という質問も出た。長官は「宮内庁として意見申し上げることは控えたいと思いますが、オリンピックを巡る情勢は先ほど申し上げたとおりで、私としては感染防止に徹底を尽くしていただきたいということに尽きます」と答えている。

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