Sergei Polunin/1989年、ウクライナ生まれ。英国ロイヤル・バレエ団退団後は、俳優として映画「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」などに出演(写真:Dmitry Bubonets)
Sergei Polunin/1989年、ウクライナ生まれ。英国ロイヤル・バレエ団退団後は、俳優として映画「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」などに出演(写真:Dmitry Bubonets)
映画「シンプルな情熱」の原作は、現代フランス文学を代表する作家の一人、アニー・エルノーの自伝的小説。7月2日から公開予定 (c)2019L.FP.LesFilmsPelleas-Auvergne-Rhone-AlpesCinema-Versusproduction, (c)Julien Roche
映画「シンプルな情熱」の原作は、現代フランス文学を代表する作家の一人、アニー・エルノーの自伝的小説。7月2日から公開予定 (c)2019L.FP.LesFilmsPelleas-Auvergne-Rhone-AlpesCinema-Versusproduction, (c)Julien Roche

 世界的バレエダンサー、セルゲイ・ポルーニンが同名のベストセラー小説を原作にした映画「シンプルな情熱」に俳優として登場する。AERA 2021年6月28日号に掲載された記事から。

【映画「シンプルな情熱」の場面写真はこちら】

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 ウクライナに生まれ、2010年に英国の名門ロイヤル・バレエ団のプリンシパルに史上最年少の19歳で昇進するも、2年半後に退団を発表。波乱の人生と苦悩に満ちた日々を描いたドキュメンタリー映画「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」(16年)は、日本でも大ヒットを記録した。

 そんなポルーニンが映画「シンプルな情熱」で再びスクリーンに姿を見せる。演じるのは、大学で文学を教えるエレーヌ(レティシア・ドッシュ)が理性ではどうすることもできないほど激しい恋に落ちる、妻子持ちのロシア人外交官アレクサンドルだ。演じるうえで意識したのは、「タフで、大人っぽい、ロシア人男性」。濃厚なラブシーンも多い役柄だが、「ダンサー役ではなく、主演俳優の一人としてオファーが来たのがうれしかった」と言う。

■撮影時は「嵐の中」

 エレーヌは、なぜこんなにもアレクサンドルに惹かれるのか自身もよくわからぬまま、訪問を告げる彼からの電話を待ち続ける。ダンサーとして繊細な感情を体一つで表現してきたからか、ポルーニン演じるアレクサンドルの動きや眼差し一つ一つから目が離せず、エレーヌが惹かれていく気持ちがよくわかる。

 監督のダニエル・アービッドは、明確なビジョンを持ちつつも、役者たちに自由に演じさせてくれた。ポルーニンは言う。

「僕自身が最も自分らしくいられると感じるのは、思いのままにひたすら踊り、感情を爆発させるときだ。でもそれ以外の時間は、家族と過ごすときも、友人と過ごすときも、どこかで“演技”をしている部分があると思う。アレクサンドルの考えに100パーセント同意はできないけれど、自分のなかにないものは表現できない。僕の感情や心の動きも、映し出されているんじゃないかな」

 撮影時は、仕事が忙しく心も安定していない時期で、「嵐の中にいるような状況だった」。

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