歯周病は歯と歯茎の隙間にある歯周ポケットに、歯垢(しこう=プラーク)がたまることで発症する感染症。歯周病菌が出す毒素は歯を支える歯槽骨(しそうこつ)を溶かし、悪化すると歯がぐらついて最後は抜け落ちる。最近では、歯周病菌が認知症や動脈硬化などのリスクを高めることもわかってきた。

 厚労省の調査によると、歯肉炎や歯周病の患者数は、歯科を受診している人だけでも400万人弱。かなり進行するまで目立った症状がないため気づいていない人も多く、成人の8割が歯周病だとも言われている。つまり程度の差はあれ、成人の矯正患者のほとんどが歯周病にかかっているということだ。

 歯科矯正では矯正器具を使って歯に継続的に弱い力をかけ、少しずつ理想的な位置に動かしていく。だが、歯周病で炎症がある状態のまま歯を動かすと、歯周病を悪化させると大坪さんは警告する。

「成人の患者さんはまず虫歯や歯周病をチェックし、その治療を終えてから矯正を始めるのが鉄則です。なかには歯周病を放置したまま矯正を始めてしまうクリニックもある。最悪の場合、歯を失うことになります」

 矯正治療では、一本一本の歯に「ブラケット」と呼ばれる器具をつけ、そこにワイヤーを通して歯と歯をつないで動かしていくのが基本だ。近年は透明なプラスチック製やセラミック製のブラケットが普及し、ワイヤーもホワイトコーティングされたものが使われるようになり、目立たないものが増えてきた。どうしても見た目が気になる場合は、歯の裏側にブラケットをつける「舌側矯正」という方法もある。これなら周囲にもわからないが、デメリットもある。

「歯の表にブラケットをつけたほうが、歯をしっかり動かせます。裏からやって理想の位置まで動かせなかった場合は、表側からに切り替えなければならないこともある。また、矯正治療中は器具があるのでブラッシングがしづらくなりますが、舌側矯正の場合はそれがさらに難しくなる。より念入りな歯周病ケアが必要です」(大坪さん)

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