元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
今年も味噌仕込み。オカラを使う簡易版。簡易だからと6キロ仕込んだら簡易じゃなくなりしばし寝込む(写真:本人提供)
今年も味噌仕込み。オカラを使う簡易版。簡易だからと6キロ仕込んだら簡易じゃなくなりしばし寝込む(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 虎の子のマンションを売ったことについて偉そうに書こうとしておいて何だが、実を言うと、つい最近まで売る気なんぞ全くなかった。だって何度も言うが、独身老後の命綱としてバカ高いローンを払ってきたのである。それを老後を目前にして売るなどというアホなことは当然眼中になく、最初考えたのは「貸す」ということだった。

 いやもっと言えば、会社を辞めたらそこに引っ込むつもりだったので、そもそもは貸すつもりもなかった。なので東京の狭い借家にはとても入らぬ大型家具はそのまま置いてあり、いつでも戻れる状態にしていたのである。

 ところが前回も書いた通り、様々な事情でいつ戻れるのやら見通しも立たぬまま、気づけば空き家のまま5年。でもまあ家賃がかかるわけでもないからいいかと思っていたんだが、ある日恐ろしい事実に気づいた。マンションを所有していると、住んでいようがいなかろうが固定費が発生する。共益費、修繕積立金、固定資産税など。もちろんそのことはうっすら認識してはいたんだが、修繕積立金を値上げするかもと連絡を受けたのを機に計算したところ、なんと月に4万以上払い続けていたことが判明したのだ。

 いや月4万って……安いアパートなら家賃相当じゃん。それに会社を辞めた今、月4万の定期収入を得ることがどれほど大変かを私は知っている。それを、いつ住めるか不明な空き家をキープするために払い続けるなんて、今の私には全くありえない選択肢である。

 そうなのです。体験者の忠告その2。家を買うとき誰もがローンの支払い金額は仔細に検討する。でも維持費についてどれほどの人が真剣に考えているだろう。家を買ったらいつかは家賃は不要になるが、それとは別に、家賃もビックリのお金を生涯払い続けなければならないのである。

 ということにやっと気づいた私は、遅まきながら行動を開始した。一刻も早く家を空っぽにして誰かに貸し、維持費を賄わねばならぬ(さらにつづく)。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2020年12月14日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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