菅首相は9月24日の日韓電話首脳会談で、徴用工判決問題に言及。「現金化の流れが止まらない限り、日中韓首脳会議への出席は難しい」と伝えた。韓国は今年の日中韓首脳会議の議長国だ。

 菅首相はこの日も含め、朴智元氏、金振杓氏らにも「徴用工問題は、韓国側の責任で解決してほしい」と判で押したような主張を通した。菅首相だけではない。外務省の滝崎成樹アジア大洋州局長が10月29日、ソウルで韓国外交省の金丁漢(キムジョンハン)アジア太平洋局長に、自民党の二階俊博幹事長や額賀福志郎日韓議員連盟会長らも訪日した韓国要人に、全く同じ主張を通した。

「韓国側の責任での解決」とは、日韓で基金を作るなどの案を模索してきた韓国の姿勢を一蹴し、「問題を起こしたのは韓国なんだから、韓国の責任で判決を差し止めるなり、何なりやってくれ」という意味だ。「日本と話し合う用意がある」「日韓が協力して解決しよう」と言い続けてきた、文在寅大統領の主張は受け入れないと言っているに等しい。

 1年前、韓国はすぐにキレた。日本が19年8月2日、輸出管理を簡略化する優遇対象国から韓国を除外する政令改正を閣議決定。韓国大統領府は同月22日、日韓GSOMIAの破棄を発表した。このときは、期限である11月23日の3カ月前までに通告する必要があったのだが、それにしても、当時と比べると韓国側の粘り腰が目立つ。

■菅新政権に期待寄せる

 日韓の政府関係者や専門家らに話を聞いてみると、いくつかの理由が浮かび上がる。

 一つは、菅政権の誕生だ。韓国内では、日韓慰安婦合意を主導したにもかかわらず、安倍晋三前首相の評判が著しく悪い。靖国神社参拝などで、勝手に悪人のイメージを作り出している。AERAが昨年、韓国ビジネス紙「亜洲経済」とともに行った日韓共同調査では、「日本を嫌い」と答えた韓国人の多くが、日本から連想する言葉として「安倍晋三首相」を挙げていた。

 南官杓(ナムグァンピョ)駐日大使は10月21日、国会外交統一委員会の国政監査で「(菅首相)本人自ら現実主義的なアプローチをしている」「前向きな雰囲気が形成されていると感じている」「菅首相は安倍首相と異なる部分もある」など、菅首相を持ち上げる発言を連発した。日本側が「菅政権の対韓外交は安倍政権のコピー。勝手に良い方向で誤解してくれるのは構わないが」(政府関係者)と戸惑うほどだ。

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