だが、この病床数は都道府県が新型コロナ対応用に病院と取り決めをして確保している数のことで、常に稼働できる数ではない。大阪府は11月18日、新規感染者が現状に近いペースで増え続けると、12月1日には重症者病床の使用率が70%を超えるとの試算を発表した。宮城県でも10月半ばまでの累計で500人ほどだった県内の感染者は、1カ月で倍増し、病床使用率は75%に上ると公表された。

 高齢患者の増加に、すでに現場からは悲鳴が上がっている。冒頭の病院で、今月半ばに行われたコロナ対策会議では、看護師が「コロナ禍になってから今が一番疲弊している」と訴えた。

 高齢の患者は、ケアに手間がかかる。人によってはトイレ介助や食事介助も必要だ。認知症のある人が病室から出ようとするのを止めなくてはならない。マスクを顔に着けてくれない人もいる。治療の際、患者の最も近くでケアを行うのは看護師だ。

「防護具を着けて万全の感染対策をしなければならないだけでも大変なのに、重度の認知症であればさらに手間がかかります。感染拡大防止のため、限られた看護師が担当するので、一般病棟の看護師が仕事を交代することもできない」(同)

 看護師の疲弊は深刻だ。都内の大学病院に勤務する看護師の清水明子さんは言う。

「コロナ病棟の看護師は、業務後、シャワーを浴びて帰るのですが、全身をしっかり洗っているようでした。一般病棟の看護師もコロナ病棟に人を出すために、常に人員不足です。夜勤の回数が増え、休みを消化しにくくなり、有給休暇どころではありません。コロナが猛威を振るうかもしれない冬より前に、疲れてしまいました」

 清水さんが勤める病院でも、11月中旬、30床あるコロナ病床が埋まってきた。

「近くの大病院で院内感染クラスターが起きて、多くの患者さんを受け入れました。一般病床はほぼ満床です。病院にとって院内感染は致命的で、一時的に機能を停止することになるので警戒しています」(清水さん)

(ライター・井上有紀子)

AERA 2020年11月30日号より抜粋