「彼女は国民をつなげた。自分が何者であるのか、自分には何ができるのか、を示した。バイデン氏といいチームワークを築くだろう」

 最大の懸念は、大統領候補として最高齢のバイデン氏が、どう選挙戦を乗り越えるかだ。

 トランプ選挙陣営は、民主党大会開催に合わせて「ジョー・バイデンに何が起きたのか?」とするデジタル広告を、アクセスが多いコンテンツに対して掲載した。15~16年に手のジェスチャーを加えて力強く演説するバイデン氏の映像と、「2020年」というテロップに重なる動画やニュース映像を組み合わせている。「ルーズベルト元大統領の“あれ”……が、分かるだろう?」と単語が思い浮かばなかったり、会見の途中に何を言っているのかわからなくなったりするバイデン氏──。暗にバイデン氏の高齢化に伴う健康不安をあおっている。

 トランプ陣営は、これだけでなく、民主党支持者が投票に行くのを阻むありとあらゆる手を講じている。例えば、新型コロナ感染の予防に対する意識が高い民主党支持者らが、投票所に行くのではなく、郵便投票をするのを阻む措置を講じている。8月半ば、郵便ポストが撤去される動画が、ツイッターなどに投稿され、米郵政公社が政治的に利用される懸念が高まっている。

 党大会最終日の同月20日、バイデン氏が大統領候補指名の受諾演説をした。冒頭、「四つの危機」として、新型コロナ感染拡大、経済危機、人種についての不正義、気候危機を挙げ、「この大統領(トランプ氏)」の下、米国は最悪の結果しか出していないと批判。それを大統領に就任した初日から克服する政策を打ち出すとした。

 ハリス氏については「女性、黒人、南アジア系で、多くの米国人の声を代表する」と評価した。バイデン氏は、演説後半、家族の絆を強調。伝統的な「古き良き時代」の演説になるかと思いきや、最後に「構造的な人種差別主義」に言及した。

「もっとも暗い時、最良の進歩が生まれる」

 人種差別主義への言及は、ハリス氏採用のモメンタムを利用し、より進歩的な有権者を得たいという考えの表れであることは間違いない。(ジャーナリスト・津山恵子<ニューヨーク>)

AERA 2020年8月31日号より抜粋