「ゴッホは目の前に物がないと描けない画家。ゴーガンにイマジネーションで描くようにとアドバイスをもらっても、『自分は想像で描くとうまく描けない』とぼやいていた手紙もある。季節は冬に移り、ひまわりはもう咲いていないので、目の前にロンドンの『ひまわり』を置いて、当館の『ひまわり』を描いたのだと思います」

 ただし、東京の「ひまわり」はロンドンの作品の単なるコピーに終わっていない。

「当館の『ひまわり』が描かれたのは、ゴーガンとアルルで共同生活をしていた時期。使ったキャンバスも、同じロールをゴーガンと分けあったものだということがわかっています。2人で話をしたり、アドバイスをもらうなかで、実験的に描いたものとされています」(小林さん)

 ロンドンと東京の2点の「ひまわり」は、同じフォルム、同じ、黄色×黄色の作品。それでいて東京の「ひまわり」には、ロンドンにはない厚塗りの筆遣いや、色に微妙な変化を加える「研究」ともいえるトライを、画面のあちこちに見ることができる。

 自分の耳を切り落とすというゴッホの「耳切り事件」が起こり、ゴーガンがアルルを去った後の翌年1月、ゴッホは再びロンドンの「ひまわり」を模写した3枚目の作品、アムステルダムの「ひまわり」を描く。東京の「ひまわり」に比べると、チャレンジングな画法はなりを潜め、再びロンドンの「ひまわり」に近い作風に戻っている。

 このうち二つの「ひまわり」のハシゴが東京でできるのは、「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」が「SOMPO美術館」となって開館する5月28日から、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー東京展」が閉幕する6月14日までの18日間。新しい「SOMPO美術館」での「ひまわり」の展示は、作品との距離が近くなったり、最新鋭のガラスを使用したりと、グンと見やすくなるそうだ。7月7日から10月18日まで国立国際美術館(大阪・中之島)で開かれるナショナル・ギャラリー大阪展からのハシゴに挑戦しても損はない。

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