紀平梨花 (c)朝日新聞社
紀平梨花 (c)朝日新聞社

 昨季まではトリプルアクセルが最高の武器だった。だが、今季はそれでは通用しない。紀平梨花ら日本勢の前に立ちはだかるのは、ロシアの4回転ジャンパーたちだ。AERA 2019年11月25日号に掲載された記事を紹介する。

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 下克上。それが今のフィギュアスケート女子の戦いにふさわしい言葉だろう。今季シニアに上がった若手が、4回転やトリプルアクセルを軽々と成功させ、グランプリ(GP)シリーズの金メダルを独占し続けている。平昌五輪女王のアリーナ・ザギトワ(17)も、昨季GPファイナル女王の紀平梨花(17)も、GP初戦は2位だ。

 話題の中心にいるのは、シニアデビューしたロシアの3人。まずアレクサンドラ・トルソワ(15)は、フリーで4回転を4本入れる驚異のプログラムで、10月のスケートカナダでは241.02点の世界最高をマークした。別次元の戦いだ。

 アンナ・シェルバコワ(15)は4回転ルッツを武器にGPシリーズを連覇。アリョーナ・コストルナヤ(16)は4回転はないがトリプルアクセルを武器に、世界歴代3位の236.00点をマークした。彼女たちはみなロシアのコーチ、エテリ・トゥトベリゼの門下生。同門の12、13歳に4回転ジャンパーがさらにいて、姉弟子たちを刺激している。

 トリプルアクセルを武器に昨季のGPファイナルで優勝した紀平は、トルソワに敗れたスケートカナダの後にこう言った。

「昨季は、トリプルアクセルを跳べることで一歩リードしていたのが、今季はトリプルアクセルしか跳ばないことで一歩遅れている。一気に時代が変わってしまった」

 まさに時代は変わった。30年間ジャンプのレベルが変わらなかった女子に訪れた大変動だ。

 女子のジャンプを語るには、1988年カルガリー五輪を忘れることはできない。3回転2種類を成功した選手が金メダルを獲得した一方、伊藤みどりは3回転5種類7本を降りた。まだ女子は芸術性が重視された時代で、アジアの無名選手についた順位は5位。しかし「たった1度の演技が、フィギュアスケートを芸術からスポーツに変えた」と評価され、女子に“ジャンプの時代”が訪れた。

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