伊藤は88年秋にトリプルアクセルを女子で初めて成功したが、その大技を武器にできる女子はほとんど現れず、次に代名詞にしたのは浅田真央。2005年の世界ジュニアでは、伊藤のお下がりの衣装でトリプルアクセルを成功させた。

「みどりさんに憧れて子どもの頃からトリプルアクセルを跳びたいと思ってきました」

 と、浅田は語っていた。その後再びジャンプは停滞期を迎え、平昌五輪の入賞者にトリプルアクセルジャンパーは不在。次なる気鋭は、浅田に憧れた紀平だった。紀平は昨季にシニアデビューすると、トリプルアクセルをショートで1本、フリーで2本入れ、GPファイナル優勝。伊藤と浅田は「私たちが繋いできたトリプルアクセルのバトンを渡せた」と喜んだ。

 女子にとって最高難度の技は、30年間にわたりトリプルアクセルだった。しかし水面下では、新たな潮流がうごめいていた。平昌五輪と同じ18年の3月にあった世界ジュニアで、トルソワは4回転2種類を成功させて優勝。この時の技術点は92.35点で、五輪優勝のザギトワの技術点81.62点を上回っていた。

 トルソワがシニアデビューする19年秋に向け、どのチームも高難度ジャンプを練習した。

 19年世界選手権では、カザフスタンのエリザベート・トゥルシンバエワ(19)がシニア女子で初めて4回転サルコウを成功。今季は、コストルナヤと韓国のユ・ヨン(15)がトリプルアクセルを成功。米国のアリサ・リウ(14)もトリプルアクセルと4回転ルッツを降りた。

 一方のトルソワは今季、3種類の4回転を成功させ、さらに4回転フリップとトリプルアクセルも練習している。

 日本勢も負けていない。紀平と同門の細田采花(あやか・24)やジュニアの横井きな結(ゆ)(14)、吉田陽菜(はな・14)らが、国内大会でトリプルアクセルを成功させた。

 なぜ、ここにきて大技の成功者が次々と現れたのか。それには、技術の進化がある。

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