キヤノンがスポーツイベントでこうしたプロカメラマンのサポートを行うようになったのは、1976年のモントリオール五輪から。リオ五輪のときには、日本と距離があったこともあり、レンズ1500本、カメラ本体950台などの機材を運び込んだが、これが大活躍した。当時、選手村内でも盗難が相次いでニュースになったが、カメラマンもカメラやレンズを盗まれてしまうケースが頻発。たとえば、ある競技会場では、盗難対策のため、競技中に大勢のカメラマンがカメラバッグを1つのチェーンでつないで置いていたが、競技後に戻ってみたところ、まとめてなくなっていたという。商売道具を盗まれて呆然としていたカメラマンたちを救ったのが、キヤノンやニコンの機材貸し出しだった。

 これまで40年以上にわたってこうしたサポートを行ってきたキヤノンだが、五輪などではメイン会場にブースを設置していて、全会場でのサポートは初めて。現場近くにカウンターが設置されているので、試合前に点検をお願いしに来るだけでなく、前後半の間のハーフタイムに駆け込んでくるカメラマンもいるという。キヤノンマーケティングジャパンのグローバルスポーツイベントプロサポート推進室の仲野正明さんは「機材のトラブルで仕事ができないという時間をつくらないようにサポートするのが私たちの使命です」と話す。

■「サポート」に秘めたメーカーのメリット

 カメラの修理や調整といっても、簡単なことではない。各カメラマンは愛機にこだわりがあり、例えばシャッターを押した感覚ひとつとっても、それぞれ違うという。そこで世界各国から集うカメラマンが自国の言語で要望を伝えられるようにと、受付スタッフも海外から6人を集めた。

 ここまでサポートを充実させても、キヤノン側にはメリットがある。仲野さんによると、プロに使ってもらうことでブランド力を高める期待がある以外に、過酷な状況で撮影するカメラマンたちの生の声を聞くことはとても貴重な機会だといい、製品開発にもフィードバックしているという。例えば、以前はキヤノンのレンズは、望遠レンズは200ミリ以下と、それ以上に分かれていたが、「1本でまかなえるレンズが欲しい」というスポーツカメラマンの声をもとに、200―400ミリの望遠ズームレンズを開発したという。

 熱戦の一瞬一瞬を伝えるカメラマンをサポートする日本のカメラ技術。来年には東京五輪パラリンピックも控え、各社万全のサポートで各国カメラマンを迎えることになるだろう。(文/編集部・深澤友紀)

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