母はものを極力持たず、あるもののなかで工夫するのが好きでした。10歳のとき、母とエジプトを旅行する番組に出たことがあります。「今日はこの(お下がりの)赤いトレーナーにしたら」と母が言い、着ると「あらっ。なんかバランスが悪いわね」。そう言うや、右腕の袖をじょぎじょぎ切り落としました。それで「切った袖を右足に通しなさい」と。ロールしてジーンズの膝下あたりにバンドみたいにしたら、共布のアクセントになり「いいんじゃない」と満足げでした。

 ほかにも、カーディガンの袖に足を通してぐしゅぐしゅっとベルトで留めてサルエルパンツ風にしてみたり。スカートがなにか物足りないからと「ここに絵を描きなさい」と言われたこともあります。

 与えられたものをそのまま着るのではなく、どうしたら心地よく、自分のスタイルに合うか。創意工夫するプロセスが楽しい。納得のいく落としどころを見つけたときが至福のとき、と母は語っていました。

 古着を好んで着ていたのも、人の手を経ることによって生まれる風合いに魅力を感じていたからです。

(構成/編集部・石田かおる)

AERA 2019年10月14日号より抜粋