ワコレンジャーのショーは年3~4回。定期的に出演しているメンバーは現在、女性含め5人ほど。全員ボランティアで、週末に集まって福祉施設などで練習を重ねる。

「人が足りないので、実はヒーロー役と敵役を持ち回りでやっています。お金もないから、ショーの構成は自分たちで考えて、スーツも既製品をリメイクして」

 テレビの中の戦隊ヒーローに比べれば、見劣りするのは仕方がない。それでも舞台に上がると、子どもたちは「わあっ!」と目を輝かせ、ありったけの声を出して応援してくれる。思わず、ぐっと胸が熱くなる。

 それだけに、初めてショーに出たときは、何もできないことに打ちのめされたという。

「全く体が動きませんでした。でも、それじゃあ子どもたちに喜んでもらえないでしょう? だからね、どうしてもバク転が跳びたいんですよ」

 いつかショーで、本物のヒーローみたいにかっこよくバク転を決めて、子どもたちにもっと喜んでもらいたい。

 その気持ちが今日も、一歩後ろへ、跳ぶ勇気を与えている。

 近年、バク転教室に通う中高年が急増している。つばさ基地でも現在約4千人いる会員のうち、3割近くは40歳以上。なかには週末に、北海道や四国から通う生徒もいるという。

 代表の秋本つばささん(44)は、習いにくる中高年は「やり残したことを取り戻したいという方が多い」と語る。

「昔の憧れや過去に諦めたことにもう一度挑戦する方もいます」

 実際に5日間の取材で30~50代の生徒19人に話を聞くと、「働き詰めの生活リズムを変えたくて」(40代男性)、「昔観た特撮ヒーローや忍者に憧れて」(50代女性)といった理由でバク転を始めた人がいた。

 バク転は、ゴールが明確で、できたときに達成感が大きく、しかもかっこいい。そうした“わかりやすさ”も人気の理由だ。

 一方で、行き詰まっている現状を打破するためにバク転に挑戦する人もいる。

 都内で不動産業を営む大家純さん(35)が、つばさ基地に通い始めたのは約1年前。きっかけは、仕事や私生活に限界を感じていたからだという。

「一つのことに集中しすぎて、ほかのことがおろそかになり、緊張すると体が固まってしまう。そういう悪い癖や弱点を、バランス感覚を鍛えることで克服したいという思いがありました」

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