『大家さんと僕』(新潮社)で手塚治虫文化賞を受賞した矢部太郎さん。父で絵本・紙芝居作家のやべみつのりさんは、子供の感性を磨くことを重視して、子供と過ごしてきたといいます。『AERA with Kids冬号』(朝日新聞出版刊)では、それぞれ別の手段で表現活動をしている太郎さんとみつのりさん親子にインタビューしました。

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みつのり(以下父):僕が絵本を作っていることもあって、太郎にどんな風に絵を教えたのかなどと聞かれることが多いのですが、僕はみなさんが想像されるような子育てはしていないんですよ。高度成長期のあの時代には珍しく、私が家で絵を描いて、妻はフルタイムで働いていましたから、自ずと子供の面倒をみるのは私の担当でした。ただ、現代の「イクメン」なんかとは違ってね、徹底して子供の後を追って、観察するような感じです。子供に何かを教えようという教育ではなくてね。普通のお母さんは、「こうしなさい」「早くしなさい」というように、引っ張る感じじゃないですか。僕はね、後ろからついていく。それで、「あ、転んだ」「カッターで手を切って血がでちゃた」とかね。要するに、普通の子育てとは随分違うと思うんです。

太郎:正解を僕たちに見つけさせるのが、お父さんのやり方だったよね。正解は全然教えてくれなかった。

父:僕は、人間がどのように世界と触れていくのか、人間はどう育っていくのかを、子供を通して知りたくてずっとみてきたんだけど、子どもがすることは、本当に驚きに満ちているものです。

太郎:今日は「太郎新聞」を持ってきてくれたんだね。懐かしいなぁ。いつ頃から書き始めたんだったかな?

父:小学校に入って、字を覚えるのと同時に新聞を作ったら面白いんじゃないかと思ってね。太郎には「表現を楽しむ」ということを経験してほしかったので、そのうちの一つの方法が新聞でした。まだ字を書き始めたばかりでしたから、僕がフォーマットを作ってね。あとは太郎に自由にやらせました。僕の田舎が倉敷で、その祖父母や親戚に情報を伝えるという目的もありました。結局4年ほど続けたよね。

太郎:ああ、思い出してきた。これ、コピーして、四つ折りにして、封筒に入れてね。田舎に送ってた。そうすると親戚の人が感想をくれたり、早く書いてと言ってくれたりして。それが嬉しかったんだよね。

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AERA編集部
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