科学の進歩で多くのワクチンや治療薬は開発されたけれど、今回の新型コロナウイルスに確実に効くというものはまだない。人類を苦しめる感染症の大流行が今もたびたび起こるのはなぜか。新型ウイルスから身を守るにはどうすればよいのか。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」5月号では、ウイルス学の専門家、東海大学医学部教授の山本典生先生に聞いてみたよ。
* * *
――感染症を予防するワクチンや、治療薬といった「武器」も開発されたのに、どうして新型コロナウイルスはやっつけられないの?
有効なワクチンや治療薬は、病原体ごとに違うからだよ。例えば、インフルエンザウイルスに効くワクチンや治療薬も、新型コロナウイルスには効かないんだ。エボラ出血熱の原因となるエボラウイルスなど、危険なウイルスは今もたびたび、人類の前に現れる。しかも、同じウイルスが変異して、これまで効いていたはずのワクチンや治療薬が効かなくなることもある。そのたびに私たちは、そのウイルスの正体を突き止め、倒すためのワクチンや治療薬を開発しなくてはいけないんだ。飛行機などが発達した現代は、感染が世界的に広まりやすいともいえるよ。
――新型ウイルスが現れるたびに新しいワクチンや治療薬を開発しなきゃいけないなんて、たいへんだ!
そんなに怖がることはないよ。人類には、これまでの研究の積み重ねがあるからね。
例えば、インフルエンザに効くタミフルという治療薬は、インフルエンザウイルスの「NAたんぱく質」という部分にはたらく。NAたんぱく質は、ヒトの細胞の中で増えたウイルスが、細胞の外に出るのを助ける。そのはたらきを妨げるから、ウイルスの増殖を防げる。ほかのワクチンや治療薬の多くも、ウイルスにどんなふうにはたらいて効果を発揮するのか明らかになっている。
だから、新型ウイルスが現れても、こうした研究の成果を生かして、「このウイルスの構造に似ているから、こういう薬が効くんじゃないか」などと考えて、ワクチンや治療薬を必ず開発できると思う。出現したばかりのころは不治の病とおそれられたエイズも、今ではとてもよく効く治療薬ができたんだよ。
次のページへワクチンや治療薬が開発されるまでは?