ベンは連続殺人犯かもしれないし、単なる気のいいお金持ちかもしれない。その正体さえも「見えない」のだ。

 前作「ポエトリー アグネスの詩」から8年。何を撮るべきか悩んだときもあった。

「私は映画を通して社会や現実を見つめ、観客にその意味を問いかけたい。そのことが改めてわかった気がします」

 結末は原作ともテレビ版とも違っている。ぜひ劇場で!

◎「バーニング 劇場版」
ジョンス役のユ・アイン(写真左)は、ドラマや映画で人気の新世代スター。全国で公開中。

■もう1本おすすめDVD 「ハナレイ・ベイ」

 短編小説の映画化は、監督が原作をどう咀嚼したかが長編小説よりも明確になると感じる。そこがおもしろい。

 昨年、やはり村上春樹の短編小説を映画化した「ハナレイ・ベイ」。「トイレのピエタ」の松永大司監督による咀嚼と、表現が素晴らしい。

 シングルマザーのサチ(吉田羊)は一人息子のタカシ(佐野玲於)を亡くし、ハワイのハナレイ・ベイにやってくる。息子はこの場所でサーフィン中に鮫に襲われて死んだのだ。それから毎年、ハナレイ・ベイを訪れるようになったサチは、あるとき若い日本人サーファー2人と出会う。彼らは「片足の日本人サーファーを浜辺で見た」という──。

 映画を見て原作を読むと、もうサチ=吉田羊しか思い浮かばない。それほどに松永監督は原作の風景を確実に自分の表現に還元し、独自のリズムと空気で描いた。「原作をリスペクトしつつ、引きずられない努力が必要だった」と松永監督は語っていた。原作にはない、サチの「格闘」のシーンも心に残る。

◎「ハナレイ・ベイ」
発売・販売元:VAP
2月27日にDVD発売予定
(価格4800円+税)

(ライター・中村千晶)

AERA 2019年2月11日号