ルノーはフランス政府が筆頭株主だ。フランス政府とゴーン容疑者に対し、警戒感を示したのが西川社長ら日産幹部とされる。社内にはかねて、「なんで外国人幹部ばかりが高給なんだ」「日本人を見下して、手足のようにこき使うのは耐えがたい」「自分たちは夏に1カ月、12月に入ったらクリスマスだと長いこと休むくせに」といった不満が渦巻いていた。

 日産の元役員はこう話す。

「17年に日産の無資格検査が問題になったとき、ゴーンさんは謝罪にも現れず、さらに不満がたまった。高額な報酬を得ているなら、現場にもお金を回せるはずだと。しかもゴーンさんは昔と違い、月に1週間ほどしか日産にいない」

 先の井上氏が続ける。

「そんなとき西川社長側が今回のゴーン氏の虚偽記載などの情報を内部通報で知り、パズルのピースがはまった。内容からしてゴーン氏は辞めざるを得ず、そうなれば日産取締役会の主導権は自分たちに移ると考えたのではないか」

 虚偽記載だけではなく、自宅の購入に会社の資金を不正流用した疑いなど、ゴーン容疑者とお金にまつわる話が次々と明らかになっている。西川社長は19日夜の会見で「クーデターではない」と発言しているが、日産がルノーの支配から脱却、つまり、「ルノー株を買い増してルノーの議決権を消滅させる強硬策を取るには、ゴーン氏と、同じ容疑で逮捕されたグレッグ・ケリー容疑者(日産の前代表取締役)を失脚させ、『西川派』を取締役会で過半数にする必要がある」(井上氏)。

 一方、自動車評論家の国沢光宏氏はこう指摘する。

「ゴーン氏がいなくなって困るのはむしろ日産だ。失脚しても、フランスから代わりの統治者が来るだけだ。取締役全員の交代を要求される可能性だってある。日産に主導権を取り戻すどころか、ルノーに乗っ取られる心配も出てきた」

 豊臣秀吉が信長の「仇討ち」に駆けつけるのか。それはルノーからなのか──。(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2018年12月3日号