3月、米ニューヨークで世界最大の太陽光発電事業について覚書を交わし、互いを見つめ合うソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(左)とサウジアラビアのムハンマド皇太子。この計画は、のちに棚上げの方向と報道された (c)朝日新聞社
3月、米ニューヨークで世界最大の太陽光発電事業について覚書を交わし、互いを見つめ合うソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(左)とサウジアラビアのムハンマド皇太子。この計画は、のちに棚上げの方向と報道された (c)朝日新聞社

 サウジアラビア人記者殺害事件は、ソフトバンクの経営にも深く影響しそうだ。サウジマネーを自在に操り成長する孫正義氏の戦略は視界不良に陥った。

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 トルコのサウジアラビア総領事館でサウジ人記者ジャマル・カショギ氏が殺害された事件が、ソフトバンクグループの経営に影を落としている。

 10月23~25日にサウジで開かれた国際経済会議「未来投資イニシアチブ」。「砂漠のダボス会議」とも呼ばれ、例年、各国の政府高官や大物財界人が出席する。だが今年はムニューシン米財務長官や国際通貨基金のラガルド専務理事、大銀行の幹部らが相次いで不参加を表明した。事件に、ムハンマド皇太子らサウジ政府が関与していた疑いが持たれているためだ。

 そんな中、世界の関心を集めたのが、皇太子と蜜月関係にあるソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の動向だ。

 数々の投資を成功させ、世界的な「目利き」として名をはせる孫氏と、その孫氏に潤沢なオイルマネーの運用を委ねて儲けたい皇太子は利害が一致。昨年5月、ソフトバンクと、皇太子が率いるサウジの政府系ファンドなどで、世界最大規模となる10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(SVF)を設立した。サウジのマネーを孫氏の頭脳で動かす、投資界の新たな「巨人」だ。

 出欠が注目された孫氏は結局出席を取りやめた。国際社会のサウジへの拒否反応が、想像以上に強かったためとみられる。

 今後最も懸念されるのは、人権侵害などの問題に鋭く反応する欧米企業が、サウジマネーを原資とするSVFからの投資受け入れに難色を示すことだ。

 SVFの投資対象は未上場企業も多く、市場で流通していない株を買う形が中心だ。投資には経営陣との合意が不可欠で、サウジマネーが経営者に敬遠されれば、計画通りに投資を進めるのは難しくなる。

 ファンドの失速は、ソフトバンク本体の経営にも大きな打撃になる。孫氏は、経営の柱として「群戦略」という考え方を掲げている。AIなど最先端技術を持つ有望なベンチャー企業に次々と投資。各社の筆頭株主として経営に影響力を持ち「協力し合い、さらに大きく成長する」(孫氏)ことを狙う。この戦略の核となるのが、SVFだ。

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