「うわぁ、すごい! これほど豪華なのは見たことがない。想像をはるかに超える見事さ」

 最も格式が高いエリアだけあって、障壁画や欄間、天井板絵、ふすま絵、飾り金具や彫刻などのつくりやデザイン、質や色合いが、これまで公開済みだったエリアにあるものとは、高級感が違うのが一目瞭然だ。まさに豪華絢爛。部屋全体が黄金に輝いているようだった。

 二之間と一之間をつなぐ廊下の間仕切りの戸に描かれた、「花桶図」と呼ばれる杉戸絵が目を引いた。戸の反対側には「花車図」と呼ばれる異なる絵が描かれている。金箔がふんだんに使われ、杉戸と言うよりは、金の戸のごとく輝いていた。その上には、花鳥を刻んだ見事な彫刻欄間が備え付けられている。まさに上洛殿の格式の高さを象徴する装飾の数々に圧倒され、ため息が出た。

 公開後は廊下が観覧客の通路となり、杉戸絵は取り外されてしまったため、事前取材のこの時だけ、幸運にも見られた貴重な瞬間となった。一般公開では見られないので、本誌に掲載した写真で楽しんでほしい。

 杉戸絵を抜けて一之間に入ると、その奥に、床を高くした上段之間が威光を放つ。一般公開では、廊下から部屋を眺める形となり、通常は立ち入りはできないため、注意してほしい。主君が家臣らと対面した部屋とみられ、その隣の納戸之間は、主君を守る家来が控える隠し部屋のようにも見えた。案内してくれた名古屋城総合事務所の大橋直幸さんも「初めて上洛殿に入った時は、豪華さに、おおっと声を上げました。一番の見どころです」と話した。

 上洛殿は、幕府御用絵師の狩野探幽によって描かれた「帝鑑図」や「雪中梅竹鳥図」など数々の文化財でも有名な場所だ。本丸御殿は空襲で焼失したが、取り外して戦災を免れたふすま絵や天井板絵などは現在も保管されており、そのうち1047面が国の重要文化財に指定されている。

 名古屋市では1992年以降、本丸御殿の障壁画の復元模写にも取り組んでいる。顕微鏡やコンピューター、史料などで分析を進め、ミクロ単位で観察し、当時の絵師が使っていた素材や技法を用いて、より本物に近い模写を通じて、観覧者に実物の美と色彩を味わってもらおうとする試みだ。全ての復元模写が終わるまでには、まだ時間がかかるが、多くはすでに本丸御殿でも使われており、こうした点にも注目してもらいたいと、大橋さんは強調した。

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