小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
衆院議員会館で開かれたセクハラ被害者を守ろうという集会には約200人が集まった(撮影/写真部・小山幸佑)
衆院議員会館で開かれたセクハラ被害者を守ろうという集会には約200人が集まった(撮影/写真部・小山幸佑)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【衆院議員会館で開かれたセクハラ被害者を守ろうという集会の様子】

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 新聞の相談欄に寄せられた、中学生の女の子の悩み。「男子が胸を揉ませろとかパンツを見せろとかしつこくて悩んでいる」という訴えです。これに対してある女性タレントが「手を握ってほほ笑み『好きな人にしか見せたり触らせたりしないの』と言うのが大人な対応」との旨の回答をして、ネットで大炎上したことがありました。

 セクハラを矮小化し容認するような回答は非常識という批判がある一方で、少なからぬ数の女性が肯定的な意見を述べていたのが印象的でした。

 この手の話になると、男の欲望を手玉にとるぐらいじゃなきゃとか、ことを荒立てずに相手に合わせてあげるのが大人の対応だと真顔で言う女性は珍しくありません。自分もそうやって賢く世渡りしたと誇らしげに言う人も。

 そればかりか、セクハラ被害を申し立てる女性を責めることもあります。今回のテレビ朝日の女性記者の一件でも、酒の席に1人で行けば女を売りにしていると思われても当然なのだから文句を言うなとか、相手がセクハラしたくなるような服装や言動をしたに違いないとか。

 そんな彼女たちは、自分の息子に「2人で会食OKの女性はセックスOK」「ミニスカートは誘っているサイン」と教えているんでしょうか。おそらく、明言しないまでもそう誤解させるような物言いをしているはずです。女性の言動や服装はすべて、男性の欲望に対する意思表示なのだと。

 女は性的存在でしかないという眼差しをこうまで内面化してしまった彼女たち。無意識のうちに取り込んだセクハラ目線で自己規定をする姿はあまりにも悲しいです。

 そうとしか生きられなかった世代の女性や、そのようにして特権を手にした女性たちの「セクハラに適応せよ」は、本気なだけに罪深い。男はみんな狼だから女は賢い羊であれというメッセージは女性を貶めるだけでなく、男性に誤った自己イメージを植えつけ、セクハラ加害を正当化します。

 女も男も、もうそんな呪いから自由になろう。心の底からそう思う今日この頃です。

AERA 2018年5月14日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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