稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
なんか意味不明の物体にしか見えませんが、一応レッグウォーマーになる予定(写真:本人提供)
なんか意味不明の物体にしか見えませんが、一応レッグウォーマーになる予定(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが編み物に挑戦中! 作品はこちら

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 会社を辞めた理由の一つに、人生の残り時間は限られているのに、やりたくてもやれていないことがたくさんあるってことがありました。今思えば会社にいたってやろうと思えばできたはずだが、気持ちに余裕がなかったんですね。

 で、その「やりたいこと」の一つが編み物でして、でもド初心者ゆえ独学でやる勇気はなく、さりとて教室に通うようなこととも思えず、虎視眈々と身近なセンセイを探していたところ、ヨガの生徒さんが素敵なレッグウォーマーをはいていたので「かわいい〜」と言ったら「これ自分で編んだんですよ」と。

 ……ピンポーン! 捕獲成功です!(笑)

 というわけで早速、カフェで落ち合い手取り足取り教えていただく。先生は「できない人間」の心理もわかっておられ、糸が抜けても目を飛ばしても「いいんです適当で」と励ましてくださる。おかげで表編みと裏編みをなんとか覚え、後は自宅で編み進めることになりました。

 しかし。自宅で毛糸を手にして愕然。む、難しい。まず糸がうまくかからない。苦闘していると針から糸がスポッと抜けてたりする。それが怖いので思わず両手に力が入り、肩も首も手もガッチガチ! つまりは全然楽しくない! っていうか超イラつく! ダメ押しで老眼がきつい!

 いやー私、編み物全く向いてないんじゃ……と今更気づくも、毎日やらないと編み方を忘れそう。しかももう冬も終わりじゃん! 焦る→編む→イラつく→投げ出す→焦る→編む→イラつく……地獄の無限ループ! しかしそこをグッとこらえて連日少しずつ編み進めていたら……なんか、ちょっとだけ上手くなってきた!? キャッ!

 そうこれこれ。この「できないができるに変わる瞬間」が私は何より好きなんだよね……と改めて気づいたら、目の前を覆っていた老いの憂鬱が晴れたのです。だって老いればできなくなることが増えていく一方だけど、それはチャレンジが増えるってことでもある。つまりは楽しいことだらけ。どんとこい老後!

AERA 2018年3月19日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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