「人は体が変わることで、心や行動も変わります。自由に操作できる腕を増やすことで、それまで不可能だったものを自在にコントロールできる、神様のような『自在感』を体験することになります。実際にやってみると、まさにその通りでした。そして高い能力を一度味わったら、身体能力が衰えても、再びその高みに上るモチベーションが湧いてくる。こうした心の変化も表れるのではないでしょうか」

 体を変えることで、「生きる活力」につながるのだ。ただ、ロボットアームが普及するまでは、誰もがつけるわけにはいかない。そこで、

「バーチャルリアリティー(VR)で体が変わる疑似体験をするだけでも、同じ効果があるとわかっています」

 と、稲見さん。例えば、VRのヘッドマウントディスプレーを使ってスーパーマンになり、誰かの手助けをする。この体験をした直後には、落とし物を拾うなどの人助けをしやすくなる、という研究結果もある。ここでも、心が活性化しているのだ。

 ロボットアームでもVRでも「生きる活力」をうまく活用すれば、体の衰えによる死への不安を薄めることもできるだろう。(編集部・長倉克枝)

AERA 2017年11月20日号より抜粋