九龍ジョーがすすめる読書による官能体験(※写真はイメージ)
九龍ジョーがすすめる読書による官能体験(※写真はイメージ)

 子どもの頃読んで忘れられない本、学生時代に影響を受けた本、社会人として共鳴した本……。本との出会い・つきあい方は人それぞれ。各界で活躍する方々に、自身の人生の読書遍歴を振り返っていただくAERAの「読書days」。今回は、ライターの九龍ジョーさんです。

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 今月復刊する某カルチャー誌に、フェティッシュの現場についてのルポを書いた。女装、SM、ラバー、コルセット──。「母のペニスの二重否認による欲望の転移」とはフロイトによるフェティシズムの定義だが、2017年の「現場」には、個人の差異を消去した物質的存在への憧れと、デフレやSNSの気軽さとがミックスされた、奇妙な友愛的連帯感が漂っていた。

 学生時代、松浦理英子を貪るように読んだ。寡作な作家ゆえ、当時の最新刊『親指Pの修業時代』に始まり、あっという間に全作読んでしまった。エッセイや対談集も面白かった。当時、松浦の書く文章には性器結合中心主義的性愛観へのカウンターが貫かれており、すっかり感化された私は、性器によらないクィア的性愛の悦びに日々、思いを馳せたものだ。体験が追いつくのはずっと後のことだったが。そして、いまならわかる。松浦のテクストに触れることこそ最も官能的な体験だったのだ。(続)

AERA 2017年10月9日号