●旧石器人の人骨発見

 竹のいかだが目的地として見定める与那国島と同じ八重山地方には、白保竿根田原洞穴遺跡(同県石垣市)がある。1千点を超える旧石器人の骨が見つかり、個体数は最も少なく見積もっても19人に達した。沖縄県立埋蔵文化財センター(同県西原町)は「世界的にみても最大級の旧石器時代人類遺跡」と位置付ける。

 このなかには、ほぼ全身を再現できる個体が1個体含まれ、あおむけの状態でひざを胸のほうに強く折り曲げた姿勢で見つかっている。同センターはこれを葬られた個体と判断し、「旧石器人の遺体の葬り方までも明らかになった」と発表した。

「旧石器時代の墓が国内で初めて確認された」というこのニュースが報じられたのは今年5月19日の金曜日。「沖縄タイムス」によると、次の日から同センターで始まった人骨の一般公開では翌日までの2日間だけで400人が訪れた。

 興味深いのは、2万2千年前のものとみられる人骨に海との関連をうかがわせる手掛かりが残されていたことである。「白保2号」という個体番号が振られたこの骨は推定で身長164.9センチという男性のもので、側頭骨に「外耳道骨腫」と呼ばれる骨腫がある。分析に当たった土肥直美・元琉球大学医学部准教授は、「日常的に冷たい水の刺激を受けるとできるという学説がある。海に囲まれているのだから、なんらかの海の生活というものもあっただろうと思う」と話す。

 ただ、白保竿根田原で見つかった旧石器時代の別の骨からは、そのコラーゲンを使った分析によって、海産物よりむしろ陸上の生物に依存した食生活が推定されている。水との強い関連が刻まれた人骨の発見との間に、どのように整合性を見いだすのか。サキタリ洞で見つかった世界最古の釣り針は無関係なのか。

 16年に出された白保竿根田原洞穴遺跡調査の総括報告は「最初に琉球列島にやって来た人たちは南から海を渡ってきたと考えられており、最近、当時の航海を再現する試みも行われている。白保2号人がどのような生活をしていたのか興味深い」と述べる。

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