どちらの作品にもユダヤ系の少女が登場する。自分に非がないのに社会から追われ、居場所を奪われる存在だ。
「戦争でもっとも悲惨なのは子どもの死です。だって何も知らないまま、亡くなってしまうんですから」
●演劇の魅力は時の共有
野田秀樹脚本・演出の『半神』など、舞台化された作品も多く、演劇が好きだという萩尾さん。
「演劇の魅力は、舞台と客席が時間を共有できること。同じ空気のなかで、一瞬ごとに観客と役者が見えないキャッチボールをして、一緒につくりあげるのが芝居の良さですね。映画はどう見ても変わりませんが、演劇は観客によって変化する生き物のようです」
作品中では「卵」「雛」「ヒヨッコ」が重要なモチーフとなり、タイトルにつながっていく。
「卵と同じように、世界はとても壊れやすいもので、エッグ・スタンドの上にのせて守らないと壊れてしまう、という危機感があるんです」
萩尾さんは、「今の日本が戦争に近づいているのではないか」と、危惧する。最後に作中のマルシャンのセリフを紹介しておこう。
「戦争は戦争/破壊だ/平和は平和の中にしかない」
(ライター・矢内裕子)
※AERA 2017年3月27日号