なかがわ・ゆうすけ/1960年東京都生まれ。著書に『角川映画1976-1986[増補版]』(角川文庫)、『松田聖子と中森明菜[増補版]』(朝日文庫)、『月9』(幻冬舎新書)他多数。『SMAPと平成』(朝日新書)が12月13日発売予定(撮影/写真部・中川右介
なかがわ・ゆうすけ/1960年東京都生まれ。著書に『角川映画1976-1986[増補版]』(角川文庫)、『松田聖子と中森明菜[増補版]』(朝日文庫)、『月9』(幻冬舎新書)他多数。『SMAPと平成』(朝日新書)が12月13日発売予定(撮影/写真部・中川右介

 通称「月9」──フジテレビの月曜9時枠が「若い男女が主人公のドラマ」になったのは、バブル経済が絶頂へ向かう1987年だ。

「月9」が戦略をもって新しいドラマを作るのは88年になってからだ。購買力をつけてきた若い女性にターゲットを絞り、トレンディードラマが次々と作られた。景気が減速し湾岸戦争のあった91年、「純愛ドラマ」路線へと微妙に方向転換し、「東京ラブストーリー」と「101回目のプロポーズ」を放つと、最終回の視聴率が30%を超える大ヒット作となった。

●ドラマの別の機能

 その「月9」の最初の10年の軌跡を『月9 101のラブストーリー』(幻冬舎新書)としてまとめた。書いていて、大林宣彦監督の「映画は風化しないジャーナリズム」という言葉を思い出し、「テレビドラマこそジャーナリズム」だと確信した。そのため、「月9」そのものの歴史とともに、現実の世の中の動き(昭和から平成へ、バブル沸騰とその崩壊、湾岸戦争、政界再編等)と、芸能界でのSMAPの結成からデビュー、そしてブレイクしていく過程とを並行させて描いた。

「ジャーナリズム」というのは、社会問題や政治問題を題材にしたドラマのことを指すのではない。恋愛とオシャレにうつつをぬかす若い男女の日常のドラマこそが、時代の雰囲気を見事に捉え映し出していたという意味だ。昔は映画がその機能を担い、テレビが取って代わった。

「月9」を象徴する俳優が木村拓哉だ。93年の「あすなろ白書」では主役の次のポジションで、ドラマの中ではふられてしまう役だったが、同情を誘ったのか一気にブレイクした。その後、木村は96年の「ロングバケーション」で人気俳優として不動の地位を築くと、以後、「ラブジェネレーション」「HERO」と視聴率記録を次々と更新し、「月9」での最多主演記録を持つ。

次のページ